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「お、さすがに経験者がほとんどか」
高校の部活ともなると経験者が多いことは覚悟していたが、「初心者は私だけではないよね」と少し思っていたが間違いだった。
「君は初心者かな?」
戸松部長が手をあげなかった私に話しかけてきた。
「は…………はい」
照らされた機材が使われる時を待っているかのように存在感を放つ音楽室。
そこは経験も知識もない人間がいるにはあまりにも居心地の悪い場所に感じられた。
「大丈夫。気にすることないよ」
「はい……」
「はい」そう答えるしかない。自分にはわからないが不安という文字がまるで顔に書いてあるかのように他人から見てわかるのだろう。部長の言葉も、手に取っている部活紹介の紙を見てもその不安が消えることはなかった。
そんな私を心配してか部長が言った。
「他に入りたい部活はないの?」
「ちょっとっ!日菜華!」
「…………」
他の先輩が驚いて止めようとするが私の前に堂々とした面持ちで立っている部長の顔を見ると、それを受け付けないかのように真っ直ぐ私を見ていた。
「あ……あの……他は……」
「もし、他に考えてる部活があってそっちの方が入りやすい、良いと思うならそっちに入ればいい」
「いえ、やりたい事がないので他は考えていません」
初心者を不安に思っていることを逆手に取った発言に乗せられるようにして、正直に私はそう答えた。
すると、部長はそっと私の目の前に手を差し伸べる。
「なら、入ってみない?軽音部。やりたいことの答えがきっとあると思うよ」
迷いながら、震える手を伸ばす。
私はその手を握った──。
それは、音楽という世界に挑戦することを誓った瞬間だった………。
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