1.鳴り出す私の音

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「今年は男子はいないのかな」 「まぁ私たちみたいに男女混合よりはガールズバンドの方がいいかもしれない」 戸松部長や他の先輩たちがそんなことを話す。 「ちなみに経験者は具体的には?」 戸松部長は経験者だと手をあげた4人の一人一人に視線を向けていく。 「私はギターの経験が」 「ドラマーできます」 「私もドラマーですけどキーボードでも大丈夫です」 「ギターリストですがベースでも全然」 さすがと言った方がいいのか、それともそれが普通なのか経験者組はひとつの担当だけではなく他でも大丈夫なようだ。 「ん~、ちなみにボーカル経験ある人は?」 部長のその問いかけに対しては全員他の人の顔を見つめる。 誰も手をあげようとはしなかった。 「ギターボーカルがいないのか。歌に自信あるよぉなんて人いない?」 「ギターはできますけど歌には……」 「私も……」 私のように不安という顔をする人が増えていく一方だった。確かに人前に立って歌うことはそれなりの技量に加えて、なにより勇気が必要だから誰も志願しようとはしない。 「ん………………。君がギターボーカルっていうのは?」 「えっえぇぇ……ぇぁ…私ですか!?」 同じように部活見学に来ていた4人と部長を含めた先輩方が揃って私に視線をぶつける。 「ちょっと日菜華!初心者にギターボーカルは厳しいんじゃないの?」 弾きながら歌うということはどの楽器であっても初心者からとなると厳しい。 ギターを弾きながら歌わなければならないというのは私にとっては厳しいことだろう。 「……………ます」 しかし、私の憧れた人はギターボーカルだ。 憧れた人にできる範囲で近づくのであれば、例え厳しい道でも乗り越えなければならい。仮に他の担当になったとしても知識と経験がない私には難しいというのは変わらないのであれば………。 「私が………やります」 「えっ!?む……無理しなくてもいいんだよ?もう、日菜華が変なこというから」 「そう?でも私は出来ると思うけどな」 そうして私の担当までが決まった。 だが忘れていないだろうか。 これがまだ部活見学の段階であるということを…………。
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