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2.指と努力
「よしよし、これがCね。じゃあ次は……」
次々と新たなコードが登場してくる。
DやGであるコードにことごとく苦戦を強いられる私。
「こ……こう……」
ひとつのコードを覚えて次のコードに行った時にはもうさっきのコードの指位置が曖昧になってしまう。
「代表的なものの中で比較的簡単なコードら今言ったものね」
ふと時刻を見ればかれこれ開始から2時間が過ぎていた。いつの間にか夕焼けは後半になり、音楽室は照明の明かりによって照らされていた。
「日菜華~、まだ見学なんだからあんまり拘束しちゃ可愛そうだよ?」
こういうことになると戸松部長は止まらなくなるというか時間を忘れるというかになる性格を知っているからか、松下副部長がストップをかける。
「じゃあ、そろそろ終盤と行きますか」
「柚梨ちゃんごめんね。日菜華はこういう人だから…………。終盤と言ってもあと30分は最低拘束されることになるけど我慢してね」
「もう変なこと言わないでよいのり~~、大丈夫、もう少しだから」
当てにしていいのか、悪いのだか。私としては先輩後輩という関係が重くのし掛かって拒否することができない現状に変わりはないが……。
「これから柚梨ちゃんに課題を出します!全部で2つ、まだギターを持ってないと思うから期限は2週間後」
「は、はい」
「まず1つ目はコード進行。2つ目はバレーコード」
コード進行とは、異なるコードを並べてそれを連続して流れるようにしたもの。
バレーコードは別名セーハとも呼ばれる。同フレットで複数の弦を指一本で押さえるというコード。
コード進行を奏でる中で様々な曲に登場するバレーコードは、初心者が一番始めに苦戦して最悪の場合は挫折までしてしまう難しいコードなのだ。
「まずコード進行については、今回はコード進行」
「これがGで、ここからC指をこう移していく………」
G C Am Dsus4 Dというコード進行。
部長が指だけでなく実際に弾いて見せてくれた。簡単だからという一言で済ませれば簡単だが、私からすると正確にそして迷いなく指が次のコードへ移って行きメロディーができていた。
「これをできるようになること!そして最後に」
部長の人差し指は6本すべての弦を遮るように1フレット目を指全体で押さえて3、4、5弦を他の指で押さえる。
「これがバレーコードと呼ばれるコードの代表、Fのコード。これが出来れば基本的には大丈夫」
コード進行とFのコードをできるようにする。これが私に課された課題。
「では2週間後!この入部届けを書いて持ってくる。そして課題2つを見せてほしい」
「日菜華?コード進行はまだしも始めたてなのにいきなりFを2週間後は無理なんじゃないの?」
「なんとかなるよ!たぶんっ」
「は…………はい」
いきなり出された難易度の高い課題。2週間後にできなければもしかしたら入部できないのかと思いながら答える私。
「日菜華は結構調子に乗ってるだけだからコード進行が出来れば大丈夫だよ」
「頑張ります」
他の人たちは経験者。
少しでも追い付くためにはこれをクリアしなければならない。
挑戦の日々が幕を開ける──。
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