1.鳴り出す私の音

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1.鳴り出す私の音

春──。 桜の花が舞い踊るこの季節に私、柳瀬(やなせ)柚梨(ゆずり)は高校一年生とし大北ヶ丘(おおきたがおか)高等学校へ入学を決めた。 よくみんなが高校を決める時には偏差値のなるべく高い高校や工業高校といった専門に焦点をあてて選ぶことが多い。 しかし、大北ヶ丘高校はそこまで偏差値が高いということではなく、専門ではなくて普通科の高校だ。 「おはよう、柚梨」 決して低い訳でもないこの高校を私が選んだ理由は、誘われたからということに加えて高い高校を目指して失敗することが怖かったから。 「おはよう~」 風に捕らわれた桜の花びらが目の前に現れると両手を出して受け止める。 「柚梨はなにか部活決めた?」 「あ~~まだ考えてない」 器のようにしていた両手を崩すと再び花びらは風に捕らわれ、やがては強い日差しによって暖められた地面へと着地する。 そんな様子を眺めながらゆっくりと高校へ向かう私と友達。 大北ヶ丘高校は文武両道のようなものを掲げており、勉強だけでなく何かしら部活動を始めとした課外活動への参加が必須とされている。 中学校では帰宅部だった私にとっては何かしらに参加しなければならないというのは一番の課題だと思っていた。 そう、思っていたという過去の話なのだ。 高校に入ったというのが私の物語の始まりではない。高校なんて正直何処でもいいという考えの私なのだから。 私の運命を大きく左右させる始めの分岐点はこの部活動選択。 筆記試験の後、合格が決まってひと安心していた時に目にしてしまった文武両道という言葉。 初めは少し後悔はしたけれど、合格した自分へのご褒美として友達に誘われたことがその悩みを見事に打ち砕いてくれたのだった。
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