個性

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

個性

 その日、退屈なゼミ終わりに、あたしは大親友の七瀬(ななせ)に誘われて、大学の近所に新しくできた居酒屋に来ていた。あたしが七瀬を拉致することは何度となくあったけれど、七瀬があたしを飲みに誘うのは、珍しいことだった。無論あたしが七瀬相手に「はい」と「イエス」以外の返答をするはずもなく、こうやってテーブルを挟んで七瀬と向かい合っている。  同性ながら、七瀬はとても可愛い子だと素直に思う。お人形さんみたいな見た目はもちろん、気立てもいいし、頭もいい。同じくオギャーと泣き声をあげて、母親の腹の中からこの世に生まれてきたはずなのに、こうも違っていてよいのかとさえ感じるわけだが、これもまた、個性、個性。  これならいっそあたしが男に生まれてりゃよかったと思うことも、そりゃあもちろんある。こんなに可愛い子が彼女だったら、鼻がピノキオも真っ青なくらい長く高々と天に向かって伸びてゆくはずだ。別に嘘をついているわけじゃないけど。  でも、異性相手には奥手な七瀬のことだから、そしたらきっとあたしと関わりを持つことなど、なかったのかもしれない。ならまあ、女のままでいっか……とアホみたいなことを考えながら、あたしはごくごくとコークハイの注がれたグラスの中身を減らしているわけである。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!