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質問
いま、目の前の七瀬は、つつましく手で受け皿をつくりながら、ふっくらとよく焼けた卵焼きを小さく箸で切り分け、口に運んでいた。しばし咀嚼して、こく、とそれを飲み込んだのを見て、あたしはふっと思いついたことを尋ねようと「ねえ、七瀬」という言葉を紡いだ。
天井の照明の光をきらきらと反射させた七瀬の瞳が、こちらの方を見つめてきた。
「うん? どうしたの?」
「あのさ。時々、テレビのニュースとかで、すっごい悪い奴の生い立ちとか流れたりするじゃん」
「うん」
「ああいうの見るたびに『この人にも、赤ん坊だった頃とか、テレビアニメを観て無邪気に笑っていた時代があったんだろうな』って思うと、一体どこで道を間違えちゃったんだろうなあ……って気にならない?」
「知ってる? 美玖」
七瀬は、カシスオレンジで喉を潤したあと、こう続けた。
「そういうことを考えちゃうのを、世間では『老化』っていうらしいよ」
「はあっ!?」
はぁっ、とは言ったけれども、あたしのそれは嫌悪感によるものではない。事実、腹の底からわきあがった爆笑が、あたしの声帯を動かして、空気を震わせるまでに、それほどの時間はかからなかった。ひぃひぃと引き笑いをしながら、あたしは反論する。
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