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反論
「なによ七瀬、あたしがもう、おばあちゃんだってこと?」
「いや、これが本当らしいよ。たとえばね?」
七瀬は相変わらず、落ち着き払った様子だった。あたしは黙ってコークハイを口に運ぶことで、続きを促した。
「たとえば、刑事ドラマがあったとして。よく現場に赤色灯を回して車をぶーんって乗りつけるわよね」
「そうだね」
「で、ばたん、ってドアを開けて」
「開けるわね」
「車を降りる」
「はい」
「そのままツカツカと歩いていって、黄色と黒の規制テープを、よいしょ、ってくぐって『で、ホトケの身元は?』とかって話を始めるでしょ」
「うん」
よいしょ、のところで七瀬が身ぶりで何かを持ちあげる動作をしたのが面白くて、あたしは思わず口元がだらりと垂れ下がるのを感じた。七瀬は普通どおりに話を続ける。
「そこの場面で『車のドアロックしなくていいのかな』とか『エンジン止めなくていいのか』とか考えちゃうのが、老化の第一歩なんだって」
「まじかよー」
あたしは大袈裟に頭を垂れた。
「めっちゃ突っ込んでたよ、今の今まで」
「そもそもテレビに突っ込み入れるのだって、立派な老化だよ」
「七瀬、今日はずいぶんとあたしに冷たいね。さすがのあたしも泣いちゃうよ?」
「そんなんじゃない、ない」
七瀬はにこにこと、手を振りながら否定した。あたしはわざとらしく頬をリスみたいに膨らませて、ぷん、などと言ってみる。
「どうせあたしはもうおばさんだよ。七瀬みたいに可愛くないし」
「別にそんなことないよ。美玖だって可愛いよ」
「可愛い女の子が『なにあれ、ドア開いてんじゃん。あれあのまんま誰かがぶーんと乗ってったら面白いのに』とか突っ込み入れたりしないでしょ」
「……んー、そうかもね」
「ほらー」
あたしたちは二人して、ケラケラと笑い声をあげた。
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