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記憶
あたしにとって、七瀬はかけがえのない大親友だ。あたしは七瀬を裏切らないし、七瀬を傷つける存在は、相手が誰であっても絶対に許さない。たとえ残りの人生を、高い塀の中でタンスとかを彫って過ごさなきゃいけなくなったとしても、七瀬のことは、あたしが絶対に守る。
ただ、七瀬があたしをどう思っているのかは、怖くて聞いたことがない。たとえイーブンでなくても、大切に思ってくれているのなら、それでいいとは思っている。
だから、あたしは一週間前の七瀬の誕生日を、ひっそりと、それでいて温かく祝ってあげた。とは言っても、あたしの部屋に呼んで、ささやかなパーティーを開いただけだ。というわけで本日は足元の悪い中お集まりいただき……といきなり前口上を述べ始めたあたしを見て、七瀬は大きな瞳をぱちくりとさせたあと、まあ今日は快晴でお散歩日和だったけどね、と笑いながら突っ込みを入れてきたのは記憶に新しい。
一応はあたしなりに熟慮に熟慮を重ねて、七瀬へのプレゼントを選んだし、あたしからそれを受け取った七瀬は、その瞳に涙さえ浮かべて喜んでくれたのだけれど、別に見返りを求めてやったことでもないので、あたしは正直、驚いていた。
七瀬は、けふん、と咳払いをしてみせる。
「えー、というわけで」
「はい」
「本日は足元の悪い中ご出席いただきまして」
「まあ、今日も雲ひとつない日本晴れだったけどね」
突っ込みを入れて、ぷっ、とあたしが吹き出したら、七瀬もつられてくすくすと笑い始めた。
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