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防護
すぅ、と息を吸う音が聞こえた。
「この傘がお守りっていうか、バリアみたいなものになって、美玖を悪いものから守ってくれるように……って願いも込めて、わたしはただひとつ、これだけを贈ります」
なるほど。雨だけじゃなくて、あらゆる災いから身を守る盾となりますよう……ってことで。ああ、なんか、歌詞とかに使えちゃいそう。別にあたしはバンドとか組んでないけど。
いや、そういう問題じゃないんだ。
おかげであたしにはひとつだけ、答えを見つけることができた。七瀬もあたしのことを大切だと思ってくれているんだ、ということを。
ずっと、残酷な現実を知らされるのが怖くて訊けなかったけれど、あたしと同じくらい、七瀬はあたしを大切な存在だと、守りたいと思ってくれていた。その答えが、きっとこの折りたたみ傘なのだ。
「……ありがと」
素直な気持ちを唇にのせながら、瞬きをすると、視界がもやもやと水の中にいるみたいに滲んでいた。あたしはもう一度、折りたたみ傘を胸に抱く。
「……大切に、するから。……ずーっと」
「うんうん。それならわたしも嬉しいよ」
七瀬は満足そうに微笑むと、カシスオレンジをもう一度口に運ぶ。あたしが男なら、そのグラスを強引にむしり取って、その形のよい唇に自分のそれを乱暴に重ねるところなのだが、さすがに節度というものがある。守るべき存在を自らの手で傷つけるなど、バカのやることだ。
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