彼女と指輪

15/39
7458人が本棚に入れています
本棚に追加
/393ページ
*** 「じゃあ先に帰るから。最後の人、戸締り宜しくね。」 うちのオフィスは、事務職を除いては基本的に決められた勤務時間がない。 担当のクライアントや依頼に応じて、自分たちで1日のスケジュールを立てる。 いつもは最後まで残ることが多いが、今日ばかりは仕事を持ち帰ることにした。 焦る気持ちを落ち着かせながら車を走らせ、家路へと急ぐ。 俺からの一方的なメールに、会津からの連絡はない。 けれども何故か不安にならないのは、彼女を信じているから。 もし来られないというのなら、彼女はそう返事してくれると。 自分に都合の良い理想論と言われたらそれまでだが……。 渋滞に巻き込まれながらも、いつもより早い時間にマンションの駐車場に到着した。 7階の部屋を駐車場から見上げたけれど、明かりはついていない。 玄関の扉を開けると、中には会津の靴があって、俺の帰りを笑顔で出迎えてくれる。 そんな夢みたいな話は、流石になさそうだ……。 妄想は程々にしておかないと。 「……真面目に仕事でもするか。」 家に入ると、仕事部屋へ直行する。 取り敢えず、明後日が納期の仕事の続きでもして、気を紛らわすことにしよう。 仕事をしてる間は、不思議と他のことを考えなくて済む。 .
/393ページ

最初のコメントを投稿しよう!