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「そうか……おめでとう。」
月並みな祝いの言葉に、彰浩は照れ臭そうに笑顔で応える。
「今、ちょうど悪阻がきついみたいでさ。俺は仕事で家にいないことも多いし、実家にいた方がお義母さんもいるし、あいつも安心だろうから。」
彼女の実家も、確か20分ほどで行ける距離のはずだ。
会いに行こうと思えば、いつだって会いに行くことができる。
彰浩なりの、彼女に対する気遣いなのだろう。
「なんだか、遠い異次元の話を聞いているみたいだ。」
「異次元って……まあ、大ちゃんが誰かと結婚して子供ができたっていうなら、それこそ超スペクタクル級な話だけどさ。」
「……確かに、俺もそう思う。」
そんな未来を全く想像できない。
一生独身を貫き通すと、心に誓っているわけもないけれど、今は全く予定がなければ相手もいない。
先日、恋人とは別れたばかりだ。
彼女とは長く付き合っていたけれど、結婚を考えたことは一度もない。
彼女の人生と向き合う程の気持ちが、俺にはなかった。
「俺は……まだ、今のままでいいかな。毎日それなりに充実しているし。」
彰浩と梅本さんのような関係が羨ましいと思うこともある。
俺にもそういう相手がいたならば、きっとまた違った人生を選ぶことが出来ただろう。
けれども今の自分に悔いは全くない、それも強がりではなく本心だ。
幸せの価値観なんて人それぞれなのだから、他人と比べる必要なんてない。
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