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「……スーツ、ごめんね。」
「いいよ。普段は着ないからさ。」
「壁だと思って、そこに吐いたとばかり思っていたの。」
「……壁ね。俺はぬりかべかよ。」
俺の冗談に、会津は頬を緩ませながら楽しげに笑う。
それに心が揺さぶられるのは、当時の想いを思い出してか、それとも………
「昔と変わらないね。」
「何が?」
「面倒見が良いところ。私、前の席でよく助けてもらったもん。数学の答え、教えてくれたりしたよね。」
「会津が居眠りしていた時だろ?」
「そうそう、懐かしなあ……。」
特別に面白い話をしているわけではないのに、途切れることなく続いていく会話。
12年も経っているのに、そんな長い年月をも感じさせないのは、相手が彼女だからだろう。
初めて出会った頃からそうだった。
簡単に、心の壁を乗り越えてくる。
「なに?」
「いや……会津も、昔と変わらないなと思って。」
勿論、いい意味で……。
そう付け加えようとしたが、彼女が微笑むのを見て、どうやら誤解なく伝わったようで安心した。
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