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今までそれなりに恋人と呼べる相手は居たし、最近まで付き合っていた彼女とは別れて間もない。
会津は自分から好きになった相手で、唯一想いを告げられなかった忘れ難い人。
さっきから落ち着かない気持ちは、ただそれだけの理由のはずなのに。
「その顔……あの頃は、いつもすぐ傍にあったのにな。」
「……新居?」
自分が思っている以上に、会津のことが好きだったことを痛感する。
僅かの間、側にいるだけでも切ないくらいに胸が痛くなるから、顔を上げて冷たい空気を思い切り吸い込む。
痛みが少しでも麻痺するように。
「なあ……会津。」
「ん?」
「あのさ……彰浩に聞いたんだけど、お前ってまだ独身なの?」
訊きたいことは他にもあったのに、どうしてその問いかけを選んでしまったのか。
彰浩から聞いた確実な情報なのに、今更彼女の口から言わせる必要などない。
案の定、彼女は少し困ったように笑いながら応えてくれる。
「新居までそんなこと言うの? やめてよー。」
「あ、ごめん。そうじゃなくて……」
「別にいいんだけどね。予定もなければ相手もいない感じかな。」
でも、俺は彼女の口から聞きたかったのかもしれない。
こうして12年ぶりに再会できたことを、偶然で終わらせたくなかったのかもしれない。
こんな風にまた笑い合えるなんて、夢にも思わなかったから。
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