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仕事部屋に閉じこもり、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
時計を見ると20時だ。
クライアントから依頼された春向けのデザイン案を考えていると、ガチャっと玄関の扉が開く音がする。
鍵、締めていたはずなのに。
まさか、泥棒か……?
この家に金目のものは無いぞ、と思いながら忍び足で部屋から出る。
そっと確認すると、そこに居たのは、辺りをきょろきょろ見回している挙動不審な会津だった。
「あ……おかえり。」
自然とその言葉が出てしまう。
そして途端に、照れ臭く感じる。
「……ただいま。インターホン、鳴らしたんだよ?」
「合鍵、持っているのに?」
そうは言っても、彼女を試したわけではない。
ただ単にインターホンの機械音には気づかなかっただけだ。
呼び出しておいて泥棒疑惑を着せてしまったことも、今は伏せておこう。
「腹減ってない? 何か食べる?」
「ううん、大丈夫。それより……コーヒー飲みたいな。」
「え?」
「この間、朝に入れてくれたの……凄く美味しかったから。」
そう言って、にこりと微笑みかけてくれる。
この瞬間の、俺だけに向けられる笑顔に、胸の鼓動が高鳴る。
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