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たからもの
「果楠、危ない!」
「ど、どうしよう」
二人の大きな声をかき消すように、ジュウジュウと激しい音が周囲を覆う。
谷川果楠と真下千広の間からは焦げた臭いが立ち上り、他のグループには見られないような煙まで上り始めている。
「俺らの野菜炒めが……」
果楠が率先して料理しているのを見ていた松本啓太が呟く。
「和己、助けて……」
今にも泣き出してしまいそうな果楠が、茫然とフライパンを眺めていた同じグループの竹中和己の制服のシャツを掴んで下から覗き込む。
今日は調理実習があるため、果楠たちのクラスには給食が出ない。
中学三年生で食べ盛り。
みんな、おいしい昼食にありつこうと必死なのだ。
背の高い和己は人の二倍は食べようと目論んでいたのに、出来上がりそうな野菜炒めは徐々に黒さを増していく。
「み、水……!」
「バカ! 水なんてかけたら――――」
慌てて止める千広の声を待たずに、パニックになった果楠は水をかけた。
そうして、大きな音と同時に目の前が見えなくなるほどの煙が上がって、ついにその野菜炒めは終わりの時を迎えた。
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