たからもの

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宥輝の言葉と微笑みに、果楠は思わず叫びそうになった。 家族以外から言われたことがないのに、初めて会った宥輝はあっさりとその言葉を言った。 大人しそうな人なのに、恥ずかしがる様子もない。 言われた果楠だけが顔を真っ赤にして、口をパクパクするしかできない。 「宥輝」 「碧惟、怖いよ」 「もう、お前は立ち入り禁止」 「果楠ちゃん、今日、クッキーを持って来てるんだよ。駅前にあるパティスリーの。食べていく?」 「えっ! もしかして『fleur(フルール)』のですか!?」 「そう。この前、テレビに出ていたね」 「うわー! 食べたいです!」 「おい、果楠」 「おいで」 もう果楠に碧惟の声は届かない。 甘い言葉に引き寄せられ、更には、ほんのり口元を緩めた宥輝に背中を押されて、碧惟の部屋に足を踏み入れた果楠であった。
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