相々師匠

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「作法というモノは知っていれば良い。私はそう思っています。お蕎麦を食べるのに作法が存在するのかどうか…。それも疑問ですが、要は美味しく頂けば良いのです。店主も作法をどうこうよりも私たちが美味しく頂く事を望んでおられるでしょう。西洋ではスパゲッチなる麺があります。彼らはその麺を、音を立てずに食べる事が作法、向こうの言葉でエッチケットと言うらしいですが、私は音を立てずにお蕎麦を食べるなど有り得ません。そんな詰まらぬ事より美味しく頂く事が、一番なのですよ」 白井さんは黙ったまま先生の言葉を聞いておられました。 先生は白井さんに微笑むとつゆの中に葱と山葵を入れてそれを箸の先でかき混ぜられました。 「こうやって食べるお蕎麦は格別です。自分の食べたい様にして食べる。それが一番なのですよ」 私に仰った事と同じ事を白井さんにも話しておられました。 そして先生は私の方を見られました。 「要君。これは小説にも言える事です。小説とはかく在るべきなどというモノではありません。もちろん作法などありませんが、こう書くべきなんていう風習が雑誌などで言われています」 私も先生に届く雑誌に書いてある記事を読み、遺憾に思っていたところでした。
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