相々師匠

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翌日、どんよりとした空を玄関を出たところで見上げておりましたら、後ろから先生が、 「早く蝙蝠を買わんと雨が降るな」 そう仰いました。 「傘、持って行きましょうか」 私は玄関にある傘を手に取ろうとしましたが、先生は私の手を掴んで首を横に振られました。 「傘を買いに行くのに、傘を持って行くのはおかしくないか」 先生のその言葉に私は、少し考えます。 確かに余分に傘を持っている自分の姿を考えると滑稽でした。 「それもそうですね」 先生は口を真一文字にして微笑まれておられました。 「希世さん。行ってきます」 先生は家の奥にそう言われ玄関の戸を閉められました。 そして二人で歩き始めました。 「傘の事を西洋ではオンブレルと言うらしい」 先生は西洋の文化を研究しておられる事もあり、色々を私にも教えて下さいます。 私は初めて聞く言葉を思わず復唱しました。 「日本の傘も良いのだが、重くて肩が凝る。西洋の傘は軽くて良い」 先生は自分の肩をトントンと叩かれながら仰います。 先生の肩凝りは酷く、私が日に何度か解すのですが、それでは追い着かない程です。
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