相々師匠

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「昼は蓮玉庵で天婦羅と蒸籠蕎麦を食べる予定だが良いかな」 先生が外出なさる時は既に食事は決まっており、今日は漱石先生や森鴎外先生等も通われる蕎麦屋の様です。 「はい。私も蓮玉庵の蕎麦は大好きですので」 私の言葉に満足そうに先生も頷かれました。 多分、先生は蝙蝠傘よりもこの蓮玉庵のお蕎麦を目当てに上野に出ようと仰られたのではないでしょうか。 街の方へと出ると人通りも多くなり、近頃ではスリやひったくりと言う輩もいるそうで、帯刀した警官も多く見られました。 街行く紳士たちが手に蝙蝠傘を持っておられるのを見ました。 「今日は降るのでしょうね」 先生は立ち止まり空を見上げておられます。 「そうですね。一段と曇って参りました」 私も一緒に空を見上げます。 「急ぎましょうか。ずぶ濡れになっては美味しく蕎麦が頂けませんから」 先生の足取りは早くなりました。私は先生の背中を見て、 「やっぱり」 と呟き、先生を追いました。
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