相々師匠

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「要君は何故「蝙蝠」と言うか知っているかな」 「見た目が蝙蝠みたいだからですよね」 先生はにんまりと笑われました。 「その答えでは半分しか点をやる事は出来んな」 先生は私の顔を覗き込む様に見て口を真一文字にされました。 「ペリーが黒船で日本にやって来た時に傘を差しておったらしい。それを見た者が、「その姿、蝙蝠のように見える」と言ったそうだ。そこから洋傘の事を「蝙蝠」と言う様になったそうだ…」 私はまた先生に一つ教えられました。 「小説など何も教える事はない」なんて仰っていた先生。 しかしもう何千というモノを教えて頂いております。 御徒町を抜けて上野へと出ました。 微妙な空合の中でも上野は人で溢れておりました。 先生は傘屋へ向かわれるのかと思いきや、足は蓮玉庵のある広小路へと向いておりました。 「先生、傘屋はこちらだと思いますが」 私はニヤニヤと笑いながら先生にそう言いました。 「傘屋。そんなモノは後だ。先に蕎麦を食う」 先生は私の事を見る事もなく、足を早められました。 堀の角を曲がると蓮玉庵が見えて参ります。 私も何度か連れて来て頂いた事もあり、その場所は記憶しておりました。
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