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ふと蓮玉庵の前を見るとこっちを向いて立っておられる方の姿が見えました。
先生は足を止めて、そのお方をじっと見つめられました。
「白井君だな…」
「ですね」
目聡い方です。
白井さんは先生が蓮玉庵を目当てに上野に出て来られた事を悟っておられたようです。
「先生。要君」
手を振りながら白井さんは大声で呼ばれました。
私と先生は白井さんの前まで来て、顔を見合わせて笑いました。
「良くここだってわかりましたね」
私が白井さんに訊くと、
「はい。昨日の希世さんの料理はお肉だったので、今日は精養軒ではないだろうと」
白井さんはニコニコしながら仰います。
「しかし、他の店に入る可能性もあるぞ」
先生の言葉に白井さんは首を横に振られました。
「何年、先生に付かせて頂いていると思っておられるのですか。さぁ、入りましょう。天婦羅と蒸籠ですよね」
白井さんは蓮玉庵の戸を開けると先生と私の背中を押されました。
先生が召し上がられるモノまで把握されておられました。
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