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大きなテーブルに蒸籠蕎麦と天婦羅が並びます。
「さあ、頂きましょう」
白井さんはお箸を手に取られました。
しかし、白井さんは先生が最近覚えられたお蕎麦の作法をまだご存知ないのです。
先生の蕎麦奉行ぶりの恐ろしさを…。
白井さんは山葵と葱をつゆの中に入れようとなさいました。
その白井さんの手を先生は扇子で叩かれました。
「白井君。蕎麦の食い方の作法は知らぬようだな…」
先生は悪戯っぽくニヤリと笑われます。
「さ、作法…ですか」
白井さんは慌てて箸を膳の上に置かれました。
「作法は知っておいた方が良いぞ」
先生は最近、鴎外先生に教わったという作法を私にも教えて下さいました。
私はニコニコ笑いながら白井さんを見ていました。
先生はゆっくりと箸を手に取られました。
「良いかな…。江戸前の蕎麦はまず水に浸けて頂くんだ」
先生はお水の入った小さな器を手に取り、お蕎麦をひとすくいするとそのお水に浸けてすすられました。
「こうやって頂くと蕎麦そのものの味を楽しめる」
白井さんは先生と同じように蕎麦を水に浸けて口に運ばれました。
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