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「先生。葱は…」
先生は口を真一文字にされ、
「葱は蕎麦の風味を解らなくしてしまいます。だからつゆには入れないのです」
「だったら何故付いて来てるのでしょうか…」
白井さんの疑問はもっともです。
「葱はね、蕎麦湯を飲むための薬味なんですよ」
「なるほど」
白井さんは納得されたのか、何度も頷かれました。
私はその様子を見て、天婦羅を口に運びました。
「いやぁ…先生のお話を聞いた上で改めてお蕎麦を頂くと」
白井さんは箸を止めてじっとお蕎麦を見ておられました。
「美味しいですか」
先生は白井さんを見て微笑んでおられます。
そして、
「私は鴎外先生からこの作法というモノを聞いた後のお蕎麦は不味かったですね」
白井さんは呆気に取られた表情で先生を見ておられました。
私はそれがおかしくて思わず笑ってしまいました。
私の時も同じ事を訊かれましたので、それとなくわかっておりました。
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