相々師匠

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相々師匠

「要君、要君」 先生が大声で私の名前を呼びながら、家の中を探しておられるようでした。 私は庭で白井さんと一緒に犬のシズカとその子供たちにご飯をあげておりました。 「はい。庭におります」 私も大声で返事をしますと、先生が縁側にやって来られました。 「ここに居たのか」 先生はそう仰ると縁側に胡坐をかいて座られました。 「気が付くと後ろに居なかったので、探したよ」 そして先生は煙草を取り出して火を点けられました。 探し回る程広い家でもありません。 私が言うと失礼にあたるのかもしれませんが。 「どうかなさいましたか」 私は先生の傍に行き、縁側に置いてある灰皿を先生の前に置きました。 「明日、上野に行こうと思っている。要君も一緒にどうかと思ってね」 先生は煙を吐きながら口を真一文字にされました。 私は微笑んで是非と返事をしました。 「上野なんかにどんな用事があるのですか」 シズカたちの相手を終えて、白井さんも傍に来られました。 「うん。新しい蝙蝠を買おうと思ってな」 先生はニコニコと微笑まれながらそう仰いました。 蝙蝠とは蝙蝠傘の事で、最近は洋風のハイカラな蝙蝠傘が流行っているようです。
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