take an umbrella

1/8
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

take an umbrella

 その日は午後より雨が降る、家を出るより前に観たお天気お姉さんは一切そんな事を言っていない。能天気な表情で「今日は一日晴れです! 今日も一日頑張ってください」とは言うが天が涙を流し号泣するような雨が降った後となってはその言葉も嘘となる。  私は玄関を出るまではその言葉を信用していた。だが、玄関の戸を開けた瞬間にお天気お姉さんは信用できないと即座にその信用をやめ、踵を返して玄関脇の傘立てに入れた黒い傘を手に取った。なぜなら玄関を開けた瞬間に雨の匂いがしたからだ。雨の匂いには「ペトリコール」と言う名前が付けられている。そのペトリコール臭が外は晴天にも関わらずに鼻の中に入ってきた。これはつまり雨が近いということではないだろうか。だから私は嵩張るにも関わらずに傘を持ち学校に行くことにした。  学校に行く道すがら、親友と合流した。私はいつも親友と学校に行くことにしている。特に決めている訳ではないが学校に行くまでの道すがらに親友の家があり特に理由もなく合流しているだけである。親友は傘を持つ私を不思議そうな顔で見つめた。 「あれ? 今日は雨降るなんて言ってないよな?」 同じ天気予報を観たのだろう。親友はお天気お姉さんを信用したのか通学鞄一つしか持っていない。鞄の薄さは知能の薄さそのままに教科書の類は学校に置いていっている、それ故に通学鞄が薄いのは一目瞭然である。折り畳み傘を入れていればあの薄い鞄は多少なりとも膨らむはずなのにそれがない。親友が傘を持っていないのは明白だった。 「雨の匂いがしたんだよ」 私がそれを言った瞬間に親友は嘲笑した。一体何がおかしいのだろうか。 「雨の匂いってなんだよ! お前超能力者かよ!」 雨の匂いを感じるだけで超能力者ならこの世界にどれだけ超能力者がいるのだろうか。親友は雨の匂いを感じたことがないのだろうかと私は疑った。 「ちょっと雲こそ多いけど晴天の空じゃないか。こんな日に雨なんか降るわけないだろ」 「だから雨の匂いがしたから傘持っていっただけだよ」 「こんな晴れの日に傘なんて持ち歩いていたら笑われるぞ」 「無いよりはマシ」 「あるだけで嵩張るのに。傘だけに」 私は親友が言い放った極めて下らない駄洒落に絶対零度のような冷たい目線を送った。 親友はそれを意に介している様子は無い。 「まぁ、俺はいつ雨が降ってもいいように置き傘してるけどな」 備えあれば憂いなし。私の学校の下駄箱に置かれた傘立てには同じことを考えている者が多いのか傘を持ってきたはいいが雨が降らずに忘れ去られたのかは知らないが常に多くの傘が立てられている。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!