take an umbrella

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 本日の授業が終わった。少しは雨も軽くなるかと思われたが世の中そんなに甘くない。雨は益々酷いものとなっていた。雷神がハードなドラミングで雷太鼓を叩いているのか五分に一回はどこかで雷の落ちる音が響き渡る。本当はすぐにでも帰りたかったが委員会がある以上はそういう訳にもいかない。私は図書委員会に所属しており、放課後は図書館司書のような仕事をしている。  この雨で帰路に就けないのか図書室は珍しくごった返していた。ごった返すとは言っても私はただカウンターに座っているだけでいつもと変わりがない。皆、子供じゃないのだから本ぐらい自分で探すと言うもの、いちいち「あの本どこにありますか」と聞いてくる者は一人としていない。そのような訳で私はいつもカウンターで黙々とディストピア文学を読みながら椅子を尻で磨く。心なしか椅子のビニールも光り輝いて見える。クラスで誰も引き受ける者がいなかったので仕方なく引き受けた図書委員だが案外快適である。  ぼちぼちと人が減ってきた。戻されずに机の上にそのまま放置された本の整理をするついでに窓の外を見ると傘をささずに必死に走る者たちの姿が見える。傘を持ってきてないやつが案外多かったのだろうか。正門の前には家族の者が迎えに来たのか車が列を作っている。その車の列の中にタクシーが混じっている、私は贅沢なやつもいたもんだと軽く呆れた。それから図書室を閉めて鍵を職員室に戻し、下駄箱に向かう。 「あれ?」 私は傘立てから自分の傘を探すが見つからない。置いた場所を間違えたかなと全ての傘立てを見るが見つかることはなかった。ちきしょう、盗まれたか。私は舌打ちをしながら購買部に駆け込んだ。購買部では蛻の殻となったキャリー付きの傘立てが虚しく佇み置かれていた…… 「傘? ごめんね~ 全部売り切れたのよ」 最悪の店じまいの挨拶をして購買部は閉められた。このまま雨に濡れて帰れというのか。私は憮然そうな顔をして下駄箱の前で一人佇む。傘立てを見ればビニール傘が数本置かれていた。私は「間違ったことだけはするな」と両親に育てられてきたせいか傘を盗もうという考えは微塵も起きなかった。雨は軽くなる気配を見せない、下駄箱から正門までのグラウンドも見た目だけなら底なし沼を思わせる泥濘(ぬかるみ)に姿を変えており、雷神様もドラミングを止める気配がない。家族の者に迎えに来てもらおうかと思ったが夜遅くまで仕事をしているためにそうもいかない。ペトリコール臭が芳しい中雨が軽くなるのを待っていると、何者かが私の肩をとんとんと叩いた。
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