take an umbrella

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「あれ? 傘忘れちゃったの?」 話しかけてきたのは親友の彼女だった。会話をしたのは前に一度紹介された時のみであった。 「いや、持ってきたんだけど誰かに盗まれちゃって」 「けしからん奴もいたもんね。誰かお迎えとか? もしかしてタクシー呼んで待ってるとか?」 「親仕事だし、タクシーなんて呼ぶ金持ってねぇ」 「家どこ? 方向同じだったら入っていかない?」 幸運にも親友の彼女と私の家の方向は同じであった。普段、女性とあまり接することのない私はそれに甘えていいのか悩んだ。 「いや、いいよ。走れない距離じゃないし」 「駄目よ。風邪引いちゃうよ。季節外れの風邪は厄介だってお婆ちゃん言ってたよ」 親友の彼女はそういうと私を同じ傘の中に引きずり込んだ。女性と相合傘をするのはいつぐらいだろうか。小学校低学年の時にカエルの傘の中に入った記憶が朧げにあるぐらいで殆ど思い出せない。そもそも女性とこんなに密着して歩くのもいつぐらいになるかいくら記憶を思い倦ねてみても思い出せない。実質今回が生まれて始めての女性との二人歩きであるかもしれない。私の心臓はバクバクバクバクとエイトビートを刻んでいた。何の話をすればいいかと必死になって考えるが何も思いつかない。世の中の彼氏彼女の関係にある若者たちは何を話しているのか是非教えて欲しいものである。そんなことが私の頭をぐるぐるぐるぐると巡り回る。私がこうして悩んていることなぞ知らずに親友の彼女が会話の口火を切ってくれた。天には雷神、地に女神とは正にこのことか。 「どうしてこんな遅くまで学校にいたの? あたしは剣道部の練習で…… 一応シャワーは浴びたけど臭かったらごめんねっ」 親友の彼女は傘を持っていない方の手でゴメンのポーズを取った。彼女が言うほど臭わない、むしろたなびくポニーテールの髪からは僅かにシャンプーの香りがした。そのシャンプーの香りは私にペトリコールの匂いを忘れさせるには十分だった。 「図書委員会なんだ。毎日…… では無いけど学校終わるまでずっと図書室にいなきゃいけないんだ」 「図書委員やってるんだ。そういえばいつもカウンターで本読んでるね。駄目だよ~ ちゃんと仕事しないと先生に怒られちゃうよ~」 親友の彼女は私の額に一発デコピンを食らわせた。竹刀を握っている手であるせいか爪は伸ばされておらずあまり痛いものではなかった。私にMの気質はないがそれがとても気持ちよく感じられた。
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