第六話:死神教授と反逆者

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 対決の時が来た。  「久しぶりだな、結城志郎、いや、覆面ホッパーと呼ぶべきかね?」  「名前など、どうでもいい。死神教授、今日こそ決着をつけてやる!」  激闘が始まった。吾輩は緒戦から杖に嵌め込まれたパワークリスタルからビームを放射し、徹底的に相手の足に攻撃を集中する。  これまで蓄積された戦闘データから、覆面ホッパーの必殺技は、その驚異的なジャンプ力から繰り出されるキック技であると知れている。威力の程は計り知れず、この吾輩とて、まともに喰らえば恐らく生還は覚束ない。  相手も、こちらの目論見などお見通しだろう。素早い動きで幻惑しつつ、キックを繰り出すタイミングを執拗に狙ってくる。  戦いは持久戦にもつれ込み、どちらも決定打を得られぬまま、じりじりと時が過ぎていく。と、何度目の離合だろうか、吾輩が狙い定めて放とうとしたビームが、クリスタルから放射されずに虚しく宙に四散した。  ここが勝負時と見たのだろう、覆面ホッパーの体が宙高く跳ね上がった。空中で数回転する間に、両足が金色の輝きを帯びる。  「受けて立とう。さあ、来い!」吾輩は両手にしっかりと杖を握り締め、来たるべき衝撃に備えて身構えた。相手は必殺技の名を勢いよく叫びながら、真一文字に突っ込んで来る。捨て身の覚悟であろう事は疑いようもない。ならば、こちらも!  次の瞬間、二つの巨大なエネルギーが激突し、強烈な衝撃波が二人の身体を中心として、繰り返し同心円状に広がって行く。吾輩の強化された骨格は、辛うじて衝撃に耐えては居たが、限界は近そうだった。しかし、それは相手とて同じだろう。  こうして、永遠に続くかと思われた我慢比べだったが、先に根負けしてしまったのは吾輩の方であった。全身の骨格が音を立てて砕けるのを感じたかと思うと、次の瞬間、吾輩の体は数メートルも吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。  半身だけでも起こそうともがくが、思う様に身体が動かない。が、それは相手も同様。吾輩はハッキリと見た。立ち上がり掛けて、再び両膝を衝く覆面ホッパーの姿を。どうやら、必要最低限の戦果は確保したらしい。だが、その代償は…。  医師として、現状のダメージを冷静に分析した結果、60秒後の吾輩の生存確率はゼロと判断せざるを得ない。まあ、良かろう。この身体と引き換えに、ここからどこまで成果を釣り上げられるか、だ。勝負はまだ終わっては居ない。  「さすが…だな、覆面ホッパー、いや…結城志郎。」吾輩は最後の力を振り絞ると言った様子で立ち上がり、じりじりと相手との距離を詰めた。  「お前こそ。俺のキックをまともに受けて、あの程度しか吹き飛ばなかったのは、死神教授、あんたくらいなものだ。」もはや勝利を確信しているのだろう、立ち上がろうともせず、後ろ手で身体を支えながら志郎が言う。  「そうか。」吾輩はわざと諦めたような口調で言った。ここが吾輩の勝負どころだ。「最後に、お前に一つ伝えておきたい事がある…。」  「何だ?言ってみろ。」  「吾輩は…、お前の父の叔父の従兄弟の姉のかつての同僚だ。」  沈黙。  たっぷり二十秒は考えて居ただろう。志郎は呆れたように言った。「つまり…何が言いたいんだ?」  「何も意味など無いさ。」吾輩は気障に言い放った。「ただ…時間を稼ぎたかっただけの事だ!」そう叫ぶやいなや、吾輩は猛然と最後の数メートルを肉薄した。事ここに至って、漸く吾輩の意図に気付いたのだろう。ギシギシと音を立てながら覆面ホッパーは立ち上がり、背中を向けて逃げようとした。だが、そうはさせぬ。先ほどの様子から、もはや歩くことさえ至難の業だと吾輩は確信していたのだ。  自爆まで、あと5秒。  『全てを我が物に。我が物は全て総統閣下の物に。ヘル、チョーカァァァー!』  片手を相手の肩に掛けたところで時間が来た。微かに、爆発音を聞いた様な気もするが、薄れて行く意識の中で辛うじて意識を過ったもの、それはあの日、吾輩に向けて弾けるような笑顔を見せた、カンナと名乗った少女の面影であった。
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