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 瑞希さんに「医者に行け」発言されたものの、今日は図書委員会があるので病院には行けない。図書委員会は学年でも不人気NO1の委員会だ。  雑用が多く、休み時間が書庫整理や受付当番でまるまる潰れる日もザラではなく、更に土日は、図書館に関する無料イベントの助っ人として、ボランティア枠で参加させられたり、本を運ぶのが主な仕事内容のため力仕事が多く女子はあまりやりたがらないのも理由の一つだ。  けど、自分は結構気に入っている。この委員会をーー。 (入荷したての本を優先的に見れるし、何よりも“魔法”を使えない凡人として、“魔法”を題材とする本はとても面白いんだよなぁ)  一昔前まで、魔法使いや魔女たちの魔法の修行と言えば“勉強”が主だっただろう。  自分たちの知らない知識を覚えて魔法に生かす。だから、魔法使いや魔女たちは読書家が多い。それは魔法が使えない者たちにとっての偏見でしかなかった。  実際に、この図書室はいつも人が少ないし、近所の図書館でも魔法使いや魔女の姿を見ることはほとんどなかった。  瑞希曰く、“魔法”は“スポーツ”と同じらしい。  例えば、一人の子供を泳げるようにするためには、まずは知識を教えることから始める。  しかし、そこで使うのは教科書や参考書ではなく、水から慣れることから始めないだろうか。  魔法も同じだ。  自分の中にある魔法庫から全身に掛けて魔力を流し、いつでも魔法を発動させる状態にするのが基本的動作だ。  そんなことをして危険はないのか?  と問われれば、危険はもちろんある。しかし、それはどのスポーツにも言えること。  溺れてしまうかもしれない“危険”と、魔力を流しっぱなしにする“危険”は考え方としてはほぼ同じだ。  さらに言えば、全身に魔力を流し続けている状態を、魔法が使えない人間の感覚で言うと“ずっと小走りしている感じ”になるらしい。だから、ずっと流し続けることはできないという。  もし、長時間魔力を全身に流せるようになりたいなら、走り込みが一番“良い修行”になるのだという。  だから、“魔法”は“スポーツ”系列であり、インテリには向かない。  複雑な魔法も、スポーツの高度な技術と同じ扱いになるので、ひたすら練習あるのみだ。  町のあちこちにスポーツ用のジムとは別に、魔法用のジムもちゃんとある。スポーツは運動。魔法も運動。これが常識だ。  僕は本棚に手を伸ばし、パラパラと本を捲った。  今の時代、“魔法”を題材にする本は、異世界&ファンタジーではなく熱血&スポ根になる。  だからこそ、前世紀の本が一番面白い。  魔法が魔法らしく扱われず、超能力みたいに使われるのだ。 (何もないところからお菓子を出したり、一瞬で別の世界へ行ったり………できるわけがないのにね)  クスクスと笑いながら読み進めていると、カタンと本棚が揺れる音がした。 「先輩……」 「あ、香蓮ちゃん」  香蓮ちゃんは僕の一つ下の後輩で、栗色の髪と瞳を持つ素朴な女の子だ。彼女は僕と一緒で魔法は使えない凡人であり、真面目に働いてくれる貴重な図書委員の一人だ。  香蓮ちゃんはゆっくりとこちらへ進み、そっと紺色のカバーの本を差し出してきた。 「これは?」 「……前に、先輩が読みたがっていた続編の本です。先ほど、返却されたので、持ってきました」 「え、うわあ。本当だ、この本読みたかったんだぁ。ありがとう、香蓮ちゃん」  香蓮ちゃんは照れて頬を赤く染めて、頭を左右に振った。 「いいえ。…………だって、先輩が読みたいって言う、大切な本だから」  しどろもどろ話す香蓮ちゃんに、僕はフッと笑みを浮かべて本の裏表紙にあるあらすじを指でなぞった。 「うん、大切だよ。この本はね、主人公とヒロインの愛と冒険の物語でね……」  香蓮ちゃんに本の内容を話してあげると、とても喜んでくれた。  それが嬉しくて、僕は時間を忘れて香蓮ちゃんに読み聞かせ続けた。
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