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 正樹が完全に意識がなくなったのを確認すると、瑞希は深々と息を吐いてその場に座り込む。 「もぉ~~、変なところで発動するんだもん。めっちゃ焦るんだけど~~?」 「仕方ないよ、天然物の体質系フェロモン魔法の保持者は希少種の絶滅対象指定だからね。希少種は自身の強大な魔力と引き換えに底知れぬ運の悪さがくっついてくる。  彼の母親が体質系フェロモン魔法保持者でありながら、成人して子を成すことができたこと自体、奇跡とも言えるんだよ?」  瑞希の背後で男が語る。  瑞希は彼の姿を知っている。どこの誰で何が目的なのかも知っているが思い出したくもなかった。 (国際魔法協会諜報部隊所属―――ネズミ)  瑞希がゆっくりと首を後ろに向けると、彼は案の定、学校指定の制服を着て、ネズミのお面を着けている。 「だから、正樹のことを調べたいんでしょ? 天然物の子供の生態を暴きたいなんて趣味が悪いにもほどがあるわ」 「おやおや~~? そんな口を利いてもいいのかなぁ? 君は正樹くんの不幸体質を治して普通の男の子になってほしいんだよね?  それで告白して青春したい。きゃーっ、乙女~~」  瑞希はカッと目を見開き、ネズミに向かって火の玉を放る。  しかし、火の玉はネズミに届く前に跡形もなく消滅した。 「ダメだよ~、図書室は火気厳禁。君がいくら火魔法が得意でもPTOを弁えなくっちゃね」 「………っ、外道が」 「幼馴染を売ろうとする君もなかなかだよ。それじゃあ、正樹くんに伝えておいてね。魔法医療所に絶対に行くこと。 そこで薬を貰えれば、常に全身を魔力で覆っている体力の少ない生活や、フェロモン出しまくって老若男女に好かれているハーレム体質を抑え、更には不幸体質も治まってくると言う一石三鳥なところだからね、ってね」  ヒラヒラと片手を振って立ち去ろうとするネズミに、瑞希は馬鹿にした風に鼻で笑った。 「拉致らないの?」 「そんな野蛮人するような非人道的なことはしないよ~~。我々、国際魔法協会は飽くまで魔法使いや魔女の“自由”を尊重するからね。彼自身が自分の能力に気が付いて我々を頼らなくちゃ意味がないんだ」 「つまり、責任は持ちたくないから、その人本人に足を運ばせて“自己責任”にしたいんでしょ?」 「ふふっ、流石は国際魔法協会候補生。君が我々を手伝えば手伝うほど、推薦状の文章が増えて受験で大いに役立つんだよ? 頑張ってね」 「反吐が出る」  ベッと舌を出して威嚇する瑞希を、ネズミは黙って見下ろした。 ――途端、それは起こった。 「ぐっ、がぁ!?」  瑞希の首に黒い影が現れ、瑞希はまるで首を絞められているかのように藻掻き倒れた。  唾液が口端を流れ、涙目になって過呼吸を繰り返す瑞希を見て、ネズミはくすくす笑った。 「あんまり調子に乗ったことばっかり言うと、“お仕置き”しちゃうからね。職場の上下関係は大事だし、先輩は敬わなくちゃだめだよ?  君は優秀な候補生だから、推薦状を書いてあげようと思ってるんだからね。分かってる?」  瑞希はグッと口を一線し、小さく顎を引いた。  今の彼女ができる精一杯の肯定だろう。  ネズミは魔力を断ち、瑞希を開放した。  瑞希は口を大きく開けて必死に身体に酸素を送った。  目の前がぐらぐらするし、気分は最悪だ。  ネズミはしゃがんで瑞希に視線を合わせてあげた。お面にある視界穴から瑞希と視線を交わす。瑞希側からネズミの目が見えているのかは不明だが、怯え具合から見て見えているだろう。  ネズミは腕を伸ばし、瑞希はビクッと肩を揺らした。 「卒業までに、正樹くんと正樹くんのお母さんを国際魔法協会へ身柄を預けるように仕向けること。これが、君が国際魔法協会に入る条件だよ?  もし、できなければ難易度SSSクラスの試験に合格しなくちゃいけない。どちらを選ぶは君の自由だけど、我々は君の魔力を高く評価している。  君が来るのを待っているからね」  ネズミはとても優しい声色で語り、瑞希の頭を数回撫でた後、立ち上がり図書室を出て行った。
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