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 誰かが泣いている声がする。  とても悲し気に、どこか悔しそうに泣いている。  この泣き方を、僕は知っていた。 (泣かないで)  声に出したいのに声が出ず、僕は自分の喉元に手を当てる。  ずっと、目の前で泣いている小さな女の子。  僕はこの子が誰か知っている。  僕は動かない足を無理矢理、動かして彼女に手を伸ばした。 「泣かないで、瑞希」  彼女の首に腕を回し、僕は頬を彼女の頭に摺り寄せて目を閉じた。 「まさ、き……?」 「うん。泣かないで、瑞希さん」 「……泣いてないし」 「嘘、鼻声だよ」 「花粉症だし!」  どこまでも意地っ張りな彼女は、僕に心配かけまいといつも必死だ。  その姿が好ましくて、僕はつい笑顔になってしまう。 「瑞希さん」 「何?」 「ありがとう。僕はいつも瑞希さんに守って貰ってばっかりだから、たまには甘えて欲しいんだ。頼りない僕でよければの話しなんだけどね」  また、身体中の力が抜けていく。  僕の身体がフラッと倒れかけた時、瑞希さんは僕の腰に手を回して支えてくれた。 「瑞希、さん……?」 「あんたに頼らなくっても、私は平気だから。だから、あんたはさっさと病院行って、その不幸体質を治してきなさいよね」  いつもの調子に戻っている。  僕はホッと息を吐いて「良かった」と呟く。 「それは、明日でもいいかな? 今日はもう、病院がやっていないよ」  瑞希が顔を上げると、時はすでに五時半。今から急いで病院に向かっても、最終診察のできる六時までには到底間に合わない。 「……分かったわよ。ちゃんと行くなら、文句は言わないからね」  瑞希のつんけんする態度と、僕を心から心配してくれている態度に、僕は嬉しくて笑ってしまった。   瑞希の身体は細くて、柔らかくて、いつまでも抱きしめていたいと思えるものがある。  僕は香蓮ちゃんが目覚めて阿鼻叫喚の声を出し、瑞希が羞恥のあまりに僕を風魔法で吹っ飛ばすまでの間、ずっと瑞希の抱き心地を堪能しているのだった。 END
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