「風呂」のち「イセカイ」

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「風呂」のち「イセカイ」

雨が降っている–––––– その一雫一雫がまるで意思でもあるかのように皮膚に触れては溶け、優しく全身を覆(おお)っていく。 これは…記憶…? 生まれたての自我に情報を記憶を、染み込ませていくように…優しく…優しく…雨が形を作っていく 『祐真(ゆうま)––––––』 祐真……誰だろう、それ…… 『あなたは、私の『未来』だから…』 女性の声は柔らかく親愛に溢れている…ずっと聞いていたい、縋りたくなるような酷く懐かしい声 『レインは可愛いな、お前だけが俺の家族だ…』 黒い猫?…青空を閉じ込めたような…空色の双眸がとても綺麗な黒猫…… 『あかつきくん!私の人生を……』 『おまェはァ…背信の王様だろォ?なァ…良ィご身分だなァ…エリヤ兄さん』 『あなたは…ワタシのモノ…ワタシだけのユウマくん…ワタシのモノ……』 言葉が––––形を作っていく…降り注ぐ言葉の雫が…存在を構築していく…瞼(まぶた)を開くと遠くに見える光–––– 次第に迫り来る闇の意識によって塗りつぶされる、遠く見えた光も…暖かい声も… 何も聞こえない、何も見えない、何も感じない…虚無に喰らい尽くされ––無、無、無、無……俺は…誰だ… 涙……? 「‥‥寝ていたのか‥‥レイン‥‥あれ、レインって…誰だっけ‥‥」 起き上がり辺りを見回すとそこは『部屋』と呼ぶには余りにも閑散とした何もない無機質な空間。 「ここは、家…そうだ、オレの家…オレの部屋」 「いてっ、背中が痛い、頭もズキズキする…」 ズキンと鈍い痛みが背中から全身に廻るように走り、頭には弾かれたような鋭い痛み。 しかし、この場所にそれを慰めるモノも労わるモノもいない…ただ静寂だけが寄り添い、冷たさだけが包み込む、否–––– そうだ…オレには『妻』がいたんだっけ…オレを愛する『妻』が。 『殺せェ、そいつはお前ェのモノを奪ったァ』 『妻』とはどこで知り合ったかも、覚えていない…何故オレがここいて、なぜ彼女が一緒なのか… 『お前ェの殺したい奴がァ近くにいるぞ?さぁその手を鮮血に染めあげようゥ』 オレは最低だな…なんせ記憶がないんだ、病気…なのか… 『殺せェ…憎い相手だ…殺せ、お前からァ奪ったあの女を殺せ、殺せェ殺せ殺せ殺せ』 何故こうなった……〈あの時〉俺に力があればこうはならなかったんじゃ無いのか?もっと力があればもっと理不尽な力があれば–––– 『殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せェ』 「あぁ、そうだな、そうだ…簡単な事だ、『妻』を殺せばいいんだ…それで終わる…何もかも」 狂気と戦慄の表情をその口元に浮かべ、憎き女が醜悪に表情をよじらせ、血の涙を流し許しを懇願する姿を思い浮かべ、心が弾み…肌がひりつく程の高揚に支配され––––。 『死ぬの?』 黒髪の少女が頭をよぎる、漆黒の外套に身を包み青空を閉じ込めたような空色の双眸…… 「…今のは––––、俺は何を考えて……」 我にかえり頭を振った、そして今浮かんだ悍(おぞ)ましい情景を頭の隅に追いやる。 背中が…気持ち悪い…ベタベタとへばり付くような気色悪さに、とにかく解放されたくて堪らない。 俺は起き上がり無造作にドアを開け廊下に出ると、その先はどこか懐かしい光景が織り混ざった歪な空間、懐かしい気持ちになる風景を貼り合わせた様な不自然な『家』しかしそれは当然の様に存在している。 「ばーちゃんの家…懐かしいな」 その空間は記憶の中にある、祖母の家に形を変え、俺は昔懐かしい記憶に従いながら、風呂のある場所へと歩いていきごく自然に脱衣所で服を脱ぐ。 浴槽に浸かりスッと目を閉じると意識が遠くなっていき……夢を見る。 黒い猫の夢… 懐かしく愛しい記憶。 俺はコンビニにいて、ゴミ置場から聞こえる掠れるような弱々しい鳴き声…助けを呼ぶような声に聞こえて、近付いてみるとゴミ袋の山に埋もれるように打ち捨てられた黒い猫が一匹…その姿は静かに『死』を待っているかのように思え、しかしそうさせては行けないと強く焦燥感が沸き立ちその小さな命に吸い込まれるように手を差し伸べていた。 俺はその弱々しく今にも消えて無くなりそうな命を、着ていたフード付きの外套で包み病院を探して走り出した…何処に行けばいいのか、道に迷いながら兎に角がむしゃらに走り続け、この命が助かる場所は何処かと道ゆく人々に聞きながら、偶然出会った獣医に助けられ… 無事に処置を受け腕の中でか細く寝息を立てる小さな命を腕に抱きながら…その温もりを愛おしく感じていた。 「お前…よくわかんないけど、死にたかったんじゃないか?勝手に助けてごめんな」 俺は目を開けこちらを見上げた『黒猫』に微笑む。 「雨が降ってる日に会ったから名前は…レイン」「お前の名前はレインな」「文句があるなら元気になれよ」 レインはどこか嬉しそうな表情でこちらに空色の瞳を向け、小さく「ニャン」と返事を返す。 瞳から僅かに流れた雫は静かな雨に撫でられ––––––。 「レイン?!……俺はなぜ––––レインを忘れて……」 目を覚ますと、いつの間にか目の前に『妻』が立ち尽くしており硬直した表情でジッとこちらを見ている。 「ねぇ…あなた今誰の事考えてたの?ねぇ…あの穢れたしょうもない猫……じゃ無いわよね?あなたは私の夫よ…だいたい何で猫なのよ……人ですら無いくせに」 「お前が、それを言うなぁ!!…レインは俺にとっていや、お前が…奪って……くっ…頭がァ…」 『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ』 脳内を掻き毟られるような苦痛に身悶え、表情を歪め腹の底から湧き上がるドス黒い感情に思わず吐き気を覚える。 「出て行け、出て行ってくれ…頼む、一人に…してくれ」 『妻』は薄っすらと笑みを浮かべ「でも今はワタシノモノ…」去り際に言い残しその場を後にする。 何だこの感情は、頭が痛い…殺してやる……殺してやる…殺す…コロス––––。 「っまた…俺はどうしてしまったんだ……レイン…お前に会いたいよ……」 少し暖かい気持ちが蘇って来るのを感じ安堵する、あやふやだがはっきりと分かる心の内に揺らめく灯火だけが唯一の拠り所…この場所でそれを失えば闇は情け容赦なくこの身を魂を貪(むさぼ)り食らう。 ドロドロと内から溢れ出るような感情を抑え浴室から外に出る、服に着替え鏡に視線を向けると、若干目尻の吊り上がった鋭い眼光が同じく見返してくる、短髪に茶色い地毛が特徴的な青年がそこにいた。 自然と大粒の涙が込み上げてきて無表情な頬を伝い、鏡の自分に語りかける。 「お前…誰だよ……なんで、ここにいるんだ……ここは……どこなんだ」 力が欲しい……もう何も奪わせない…圧倒的な力だ、力が欲しい––––。 『––––力を得てなんとする』 頭の中に声が響いた、重く重厚感のある男性のような声…答えなければ、いや…答えはある。 「…俺に対する不条理、不都合、理不尽全て叩き潰す」 『––––その力の行く末に何を望む』 様々な記憶が濁流のように流れ込み凄惨な情景が脳内に映し出され…その身を打ち震わせた… 「もぅ失いたくないんだよ…自分の無力によって、手の平から大切なモノがこぼれ落ちていくのをただ観ている事しかできないのは……嫌なんだ…俺は俺が誰かを知りたい…ここから出ていける力が欲しい」 瞬間、目の前にうっすらと白い光に覆われた青白い刀身の刀が目の前に現れたその刀は悠然と顔前に浮かび凄まじい存在感を放っている。 『––––力が欲しくば我を取れ』 それが現実なのか思考するより前に、不敵な笑みを浮かべその刀の柄を握っていた。 「待ちなさい!その人をどこへ連れていくきよ!!」 『妻』が異常を感じたのか風呂に走ってきた。俺は‥いや俺の中の何かが刀を自然と『妻』に向け当然の様に言い放つ。 「攻守交替だ…引っ込め……今は見逃してやる…だが必ず…首洗って待ってろ……アレク」 睥睨する俺に『妻』はその表情を引き攣らせる。瞬間俺は世界から消えた‥‥ 『妻』––––否、女は背中から禍々しい黒い膜を膨れ上がらせその様相を醜く変貌させて行く…… 「くヒィひひ…あなたは逃げられない…だってワタシィとあなたハァ…一心同体ィ……今は大人しくしてあげるゥ…またァあの時みたいに…膨れ上がった絶望ォ…喰わせて貰おうじゃァないか…兄さん」 視界が白く染まり全身を浮遊感が包み込む–––– 強い風が全身を抜けていくのを感じるとともに一瞬浮いた体が地につくのを感じる。 目の前には壮大な草原、山々が連なり見たことの無い生き物が空を飛んでいる。そこには俺の知らない『セカイ』が広がっていた。 「ここは––––」 「刀が急に現れて…それから…」 とてつもない興奮が全身に駆け巡る、このセカイにいる理由なんてどうでも良かった、ただ俺は呪縛から解放された様な不思議な感覚と体の内からドクドクと溢れ出る『欲望』に感情も考えもただ委ねた。 「俺は……自由…力が…溢れてくるみたいだ…」 眼下に見える都市には天に吼えるかの如く巨大な塔が悠然と聳(そび)えていた。 今立っているのは、切り立った崖に囲まれた山…見渡せる景色からそれなりに高い山の頂上付近。 周辺には草木が生い茂り近くに湧き水が奏でる水音が耳に心地よく、心を僅かに穏やかな気持ちにさせる。 いつぶりだろうか、これほどまでに解放された気持ちは……失っていた心が蘇り、虚ろだった瞳に生気が宿っていく。 そしてふと自分の姿に目をやった。 白いシャツにスラックス…しかも所々黒い染みがついていて小汚い。 「着替えたい…こんな格好恥ずかしくて歩けないな、そもそもここは何処なんだろうか…」 そして左腰に携てある刀に手を置き改めてその質感を噛みしめる様に握る。このセカイにくる前に掴んだ刀が鞘に収まり違和感なく装備されている。黒と金が混ざり合う様に交差した模様の鞘に細い鎖が巻きついており、その鎖が腰に巻きついている。 俺は徐ろに刀を抜き、柄は紺色その刀身は青白く光っていて刃文は見るものを吸い込んでしまいそうな程に美しい。そして刀身を見つめながら僅かに笑みが溢れる。 刀を鞘に納めて俺は自分の体の変化に驚く––––。身体が軽い、その身体は洗練され無駄がなく、強靭でいてしなやか。見せかけの筋肉ではなく戦闘に特化した身体つき。 「なんだ、この身体……すごい」 俺は興奮して近くの水辺に走り、薄っすらと水面に浮かぶ自分の姿は以前の記憶にある自分ではなく、鋭い眼光の美丈夫が見つめ返していた。左目に僅かにかかる前髪が何処か冷たさを感じさせる雰囲気…ただ何故か懐かしくも––––。 「って…頭が…」 突然の刺すような痛みに、思わず腰を落として座り込んだ。そこへ突如声が脳内に流れ込む。 『答えよ我が所持者よ汝の名を我が身に契約として刻め』 頭の中に響く声…ここにくる前に聞こえた声だ、腰に携えた刀が躍動しているのが伝わってくる。 「名前?俺の……名前?」 『名を持って示せ、我が名はギデオン!汝の望む、力の器…聖霊器だ…』 「名前か…あれ……俺の名前……俺は……誰だ……名前……」 しかしそんな疑問をかき消すように『名前』が頭に浮かび魂が最初からそうであったかの様にその名を受け入れた気がした。 「エ…リヤ………俺の名はエリヤだ」 宣言し終えると同時に刀が眩い光を発し鞘に巻き付いていた鎖が伸びて心臓を貫く。 「うわっ何だこれ!刺さってる?胸に鎖がささって––––––」 しかし痛みは無い、そして胸に刺さっていた鎖は光の粒となって消えていった。 『案ずるな我と汝の魂の契約が結ばれたに過ぎぬ』 「そ、そうか……ところで普通に会話出来るんだな?」 『汝の想いがそうさせておるやも知れぬ……』 会話など何年もしていない気がする……突如現れた『話し相手』に口調も段々と軽やかさを取り戻して。 「そうか、でも説明してくれる相手がいて助かったよ。色々と聞きたいことはあるが、ここは何処なんだ?異世界ってやつ?」 『異世界という表現はあまり適切ではない。このセカイは汝のいた世界と元は一つの世界、そして我は汝の中に眠る聖霊の力が、その強い望みに応じ汝の望む形として汝の前に現れたに過ぎん、我は器だ聖霊の力を具現化するための噐なのだ』 「以前の世界とここが元は一つ?聖霊の力に覚醒?今ひとつ呑み込めない……あと聖霊器?だっけ?その所持者に選ばれた者?てことは他にも俺と同じ様な奴がいるって事か?」 『多くはないが、確かに存在する。全ての命ある物には皆一様に聖霊の力を宿している、その結びつきが特に強い資質ある者が稀に覚醒し、その最も強く望む力の形として我らの様な器が目覚めるのだ』 「なるほど、じゃあお前は俺のイメージする最も強い力の形って事か」 だから刀の形か…強い力を具体的にイメージすると様々なもなが連想出来る例えば銃とか、ただ俺の場合刀に対しての思い入れの方が強かった…恐らく、いつだったか…記憶が曖昧だが剣道をしていた事がそのイメージに繋がっているのだろう。 『その通りだそして我はギデオン「お前」ではない』 「うっ…意外と細かいのな、それを言うなら俺だってエリヤって名前を名乗っただろ?俺も名で呼ぶから、お前も呼べ」 『ギデオンだ、心得た…エリヤが望むのならばそう呼ぶ事とする』 「まぁ、よろしくなギデオン、新しいセカイで冒険の日々か……なんかワクワクするな」 何故か『妻』のことが一瞬でどうでもよくなっていく感じがする、やっぱり俺は最低何だろうな……ただもうそれも関係ないか……帰る場所なんて最初から––––。 「まだ頭が混乱してるみたいだ……ギデオンはこのセカイ?の事わかるんだよな?世界が元は一つだったてどう言う意味だ?」 ギデオン曰く––––––。 遥か昔、人間は様々な種族と共にあり…セカイは神の愛に満たされ悠久の時を過ごしていた。 しかしある時、人間は愚かにも他の種族を差別し虐げ、人間こそが至高の存在であると宣言する様になった。 その時の『人間の王』は自らが神に成り代わるべくその意思に賛同する人間を集め愚かなことに神に弓を引きその蛮行に多くの人間が賛同し、神は酷く怒った。しかし同時に嘆き悲しんだ。 神はそんな人間を滅ぼす事はされず、代わりにその王と関わった人間達を全てこのセカイとは別の世界に別たれた。 隔離された世界は神の愛を失い、その恩恵も受けられなくなり本来あるべき力を失い人間は脆弱な存在へと成り果てる……やがて神はどちらのセカイ〈世界〉からも干渉する事を辞め…沈黙を守っている。 そしてその王は『背信の王』として最悪の時代の象徴となり今も語り継がれている。 『このセカイは神の恩恵であるマナ〈魔力〉に満ちている、その力を利用して超常的な力つまり魔法を行使することができる』 「じゃあ……魔法が使えるって事か!?マナを使えば俺も魔法が使えるんだよな?」 『間違ってはいない』 「素直じゃないねー」 『エリヤよ汝の中に刻まれた力がある……それは『アストラルアビリティ』万象創造<クリエイト>それがエリヤよ汝の力だ……アビリティとはこのセカイで聖霊との繋がりを特に強く持つものが行使することの出来る特別な力『アストラルアビリティ』は聖霊器を顕現させ契約を結んだ者のみに発現する特殊な力だ』 「なるほど……名前から察するに色々創造できる凄い力的な事か?」 なんか理解の仕方がバカっぽいな……俺 『間違っていないが……恐らく制限はある、汝は全ての過程、事象を破棄し汝の想うままの魔法を創造し行使することができる……はずだ』 「はずって……なんでそこだけ自信無いんだよ!」 『何故かはわからぬ、ただ概念は間違っていない……はずだ……恐らく…』 「さっきより弱気になってないか?ったくしっかりしてくれよ…聖霊器なんだろ?」 『……このセカイで力を行使するにはマナが必要になる、マナは食事や休息をしたりしても増えるがこのセカイに生息する魔獣などを倒した時に多く取り込む事が出来るがその容量も汝の成長により大きくなり、貯めれるマナの量が少なければ行使出来る力も限界がある』 「話題をそらしやがった……しかし魔獣なんて、いよいよ異世界だな…」 『そしてもう一つ重要な事がある』 「何だ?レベルの概念があるとか言わないよな?」 『……ある』 「マジか?!」 『……嘘だ』 「逆にマジか?!そのキャラで冗談とか、絶対ないから!」 冗談とか言うんだな、意外すぎてちょっと引いてしまった……汝とか言うやつなのに、ちょっと細かい所あるし距離感が分からん。 『エリヤよ我には心の声も全て聞こえておる』 「更にマジか!?それはダメだろ!プライバシーの侵害だ!」 心の声が聞かれるとか勘弁してくれ……俺普段何考えてるだ?結構ヤバイ事考えているんじゃないか…… 『そうだな勘弁してやりたい所だが、残念なことに我と汝の魂は契約の楔により一体化しておる故、どうにもならぬ。案ずるな我は汝の考えに無用な介入はせぬ』 「既にしとるわ!はぁ~これじゃロクに妄想も……」 待てよ……そうゆう魔法を万象創造〈クリエイト〉で考えてみてもいいかもしれない心を読まれない魔法とか。 『良い心がけだが…無理だ。他者に対しては有用であるが汝の力は我を媒介として発動する故に結論をいえば汝の考えは我の考えとも言える』 「あぁ~はいはい、もうわかったよ、あきらめます。んで重要なことって?」 『行使する力は練度によってその技の冴えも変わってくる。同質量のマナを用いる力同士がぶつかった時、練度の高い者が当然勝る。いかに強力な力を行使しようとも練度がなければ初歩的な力にも負けうるのだ』 「鍛えないと強くならないってかぁ、めんどいな、そう言う魔法生み出せれば解決しないか?」 『好きにするといい』 「なんか急に投げやりじゃない?」 のんきなやりとりをギデオンとやっていると、地鳴りと共に『何か』が接近する……それは木々を揺らし地を揺らすほどの足音。 「な、何だ?!…地震?」 『ふむ、近くに魔獣の気配がするな。もう目の前だが』 「早く言えよ!」 地鳴りを伴う足音、その気配が漂う方角に目を向けると突如『それ』は周囲の木々を薙ぎ倒しエリヤの眼前に姿を現した。それは全身が岩の様な鉱物で覆われた人型の魔獣…体長は4メートルは優にあるであろう体躯に隻眼の無機質な赤い眼でエリヤを睥睨する。 「ゴーレムっ?!」 そう形容する以外の言葉を持ち合わせていない、動く岩石…それはまさしく『ゴーレム』と言い表すべきだろう。 『エリヤよ、我を構えよ』 「言われなくてもっ!!」 左腰に携えた鞘から素早く刀を抜き放ち、目前に現れた岩の巨像は隻眼の無機質な赤い眼を光らせ重機の様な凶悪で巨大な腕を振り上げエリヤ目掛け一直線に突進、その推進力は巨体からは想像もできない速度で目前の矮小な存在を押し潰す––––。 「うぉっっ早っ」 とっさに左側に飛びのき、何とか一撃をかわし、その巨像は真っ直ぐに湧き水の流れていた岩山に突っ込んだ。 「おいおい、無理だろ!どうしろって言うんだよこんなの……そもそも、刀で岩切れんのかよ?!いきなり強敵すぎだろ」 その一撃を受けた岩山が粉々に砕けている水しぶきが上がり突然の豪雨の様に辺りに降りしきる。 『案ずるな、我に意識を向け奴を粉砕するイメージをしろ』 「粉砕?岩を粉砕……爆発とかか」 『我を構え汝のイメージを我に重ねよ』 俺はギデオンに言われるまま強い爆発をイメージする。 爆発…外郭じゃなく…中から起爆するイメージだ…… 覚悟を決め、刀を構える。相手に勝つイメージを膨らませ、巨像がこちらに向かって動き出すよりも早く俺は跳躍し大きく刀を振りかぶり––––––。 『汝の創造した力を叫べ、我の意識に流し込むように!』 「万象創造〈クリエイト〉真ノ(テラ)爆撃斬(エクスプロージョン)」 一閃……巨体を上段から斬り下げながらその傍をすり抜けた。 静寂の後に巨体の内部が赤く光り内側から凄まじい爆音と共に巨像の全身が弾け飛び、その場で砕け散る。 爆煙が巻き起こり地に着いていた足だけが踏みしめる様にその場に残るが…主人を失ったそれは単なる岩石となり崩れ去った。 『内部からの爆撃とは考えたな』 「はぁ…はぁ…そりゃどうも…こっちは必死で何が何だか」 俺はその光景を眺めながら、身体の底から湧き上がる高揚感で満たされていた。 俺は強い、強いぞ‥負ける気がしない……もっと…もっと力を…全て思い通りに…… 『––––––』 彼の錯覚はのちに彼を狂気へと落として行く。慢心がその身を喰らい尽くしていく…静かに…じわじわと彼の中に影を落としながら。
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