「レイン」のち「リリス」

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「レイン」のち「リリス」

 これでいい、これでいいんだ… 俺は誰でもない、何者でもないのだから。ただそれでも、俺は…俺でありたいと願った。 記憶を有するだけの、欠片でしかない…本来在るべきでは無い存在。 ただ、目の前の愛すべき存在の記憶が、君の特別でありたいと願う気持ちが如何しようも無い欲であり…その願いのお陰で、俺は暗闇の中で最後に自分を失わずに済んだ。 目の前の少女は自分の為にその命を犠牲にする程、俺と言う自我を肯定し愛してくれたのだから…充分だ。 充分すぎる程俺はもらった。あの時、生きて償うと決めた、逃げないと誓った、その決心は変わらない。でも今俺は消えかけている、愛すべき命を犠牲にして生きたいとは思えない…だから、これでいいんだ。せっかく前を向けたからこそ…やっと再開出来た二人を祝福しながら…カッコつけて消えていきたいのに、何故か心が締め付けられるんだ。 悔しい––––––。悔しいよ…何でその役目は俺じゃなかったんだろう。そこに立っていたい、その視線を注がれたい、その気持ちを独り占めしたい… これでいいはず…なのに…何故こんなに寂しいのだろう、何故こんなに胸をかき乱されるのだろう。 願うなら、君を抱きしめてみたかった、涙を拭ってあげたかった、頭を撫でてみたかった。 君の特別で………ありたかった。 孤独の檻に引き込まれ、冷たい暗闇に埋もれそうになった時、優しく暖かい言葉がその心を掬い上げ淡い光を感じさせる。 「私じゃ、だめかな…?えりやくん…本当はゆうまくん?だっけ…レインさんみたいに昔からあなたの事知っているわけじゃ無いけど…想いも、負けちゃうかもだけど…それでも…あなたは私の特別だし、私もあなたの特別になりたい」 気がつくと、傍に彼女は佇んでいた。彼の胸に当然の様に手を添えて、マナを流し込んでいる…そして彼の、痛哭と焦燥が入り混じった今にも泣き入りそうな表情を見て、その心の内を感じ取っていた。 「だから…そんな顔しないで?えりやくん、一人で舞い上がってる私…バカみたいじゃん…」 「リリス––」 リリスは優しく、しかし憂いを帯びた表情で彼の瞳をジッと見つめた後、目の前に佇み同じく手を当てたままのレインに向き直った。 「レインさん、ですよね…私はリリスと言います。話は祐真さんから聞きました……えりやくん…私が貰ってもいいですか?」 レインはリリスの突飛な発言に目を細め、直様返答を返す。 「…だめ、彼は…ゆうまの一部……私にとっても大切…いきなり現れたあなたになんか…渡さな––––」 リリスはレインの応えを聴き終える前に彼の唇へそっと自分の唇を重ね、頬を薄く赤らめながら口づけを交わした。 「––––!?」 リリスの行動に思わず周囲にいた誰もが息を呑み、レインはその様子に目を剥き、そして殺気立つ。リリスは顔を上げ力強い視線でレインを見据え震える唇で、その瞳に僅かに涙を溜めて言い放った。 「なら、奪います。えりやくんの事を何かの一部としか思ってない人に私は……負けない!」 「…リリス…何で…」 「いきなりごめんね、えりやくん。でも私わかっちゃうから…えりやくんが、どれだけ苦しくて、寂しくて、とっても痛いか…わかっちゃうんだ…それにあなたは、一瞬だったけど…私が初めて素直になれた人だから。えりやくんは、私の特別…へへ」 瞳に映った彼女の儚げで美しい笑顔は、俺の心を震わせ、強く願わせた………生きたいと。 どんな醜態を晒しても良い、偽物でも良い…俺の記憶が本当は俺の物ではなかったとしても、俺は生きたい。 誰と重ねる訳でもない、ただ純粋に自分という存在を見て特別だと言ってくれる…俺を、俺として必要としてくれた、精一杯この孤独に寄り添ってくれようとする、君との未来を俺は生きたい–––– 彼の身体が熱を帯び薄紫色の淡い光に包まれる。それと同時にエステルの行使した炎の嵐を喰らい尽くし、炎の地獄から容易に抜け出した異形、その姿は直径5メートルはありそうな禍々しい球体となって、数百を超えるであろう黒い手で立ち上がり、夥しい数の目がグリグリと辺りを見回し、一斉に祐真達の方へと視線を向け睥睨する。 中心部には不気味な女が埋まっており、グリっと目を剥くと耳にへばりつく様な声音で高笑いをあげる。 『ひぃはぁあははははははは、お前ェらはぁ、ぜんぶコロスぅ、殺すゥ!!ジックリ喰らうのはァもうやめダァ!一気に喰らいつゥくす!!ネコぉおおおお!死ねぇええええ!』 異形がその球体の半分以上ある口を開きながら、ウネウネと黒い手で地面を這い寄って来る。 「魔法、ぜんぶ食べられちゃいましたよぉ〜マジでキモいんですけどぉ〜!!そこ、いつまでもイチャイチャしてないで!何とかして下さい!」 我に返ったレインは軽く舌打ちをするとリリスを一瞥し、異形へと向かって跳躍した。 「…あんたとは、後でけりをつける……それまで、えりやの事守っとけ……」 「レインさん…言われなくても!絶対えりやくんには触れさせない!」 リリスは両手を広げ障壁の光魔法を展開し始める。 祐真は異形の悍ましい姿を目の当たりにして無意識に身体の奥底から来る憎悪と嫌悪感に身震いした。 「何なんだ、あれは!?あんなのが、俺の中に…」 そんな異形を物ともせず果敢に立ち向かっていったレインの後ろ姿を見送りながら何もできない自分に苛立たしさを募らせ歯噛みし、少しでも何か出来ないかと必死に思考を巡らせている所にアルベルトが近寄り静止する。 「まあ、見ていなさい…あの化け物は確かに悍ましいが、君の想い人も負けず劣らず化け物じみているよ」 「アルベルトさん、それはどう言う……」 レインは大口を開けて迫る異形の頭上へと跳躍し、両手に黒い球体を出現させ両手で握り潰したかと思うと、赤黒く薄い膜がレインの両手を覆った。そのまま異形の中心部へと拳を振りかざし急降下していく、途中四方八方から黒い手がレインを鷲掴みにするべく強襲するが、阿吽の呼吸でエステルが行使した風の中級魔法、『嵐刃テンペストブレード』により尽く両断され地に落ちる。黒い手の再生よりも早くレインの拳が異形の中心、不気味な女の顔前に届く。 「猫技乱舞びょうぎらんぶ<獅子三連破弾ししさんれんはだん>」 一発、右腕から放たれた数百キロ級のストレートが女の顔にめり込みその体躯が球体に沈む。 二発、左腕の追撃により女を中心とした異形の本体が潰れたボールの様に半円状に窪んだ。 三発、両の拳を組み大きく振りかぶって放たれた一トンを超える超重力の一撃は異形の全身を地中に埋め、叩き潰した果実の様に全身をひしゃぐ。 「す、すごい…レインがあんなに強いなんて…」 祐真は驚愕のあまり目を剥いてその背中を見つめ惚ける事しか出来なかった。 「彼女は特別だよ、私も長く生きているが重力魔法をあれ程使いこなす者を見た事がない、私の教えた武闘魔法も凄まじい勢いで呑み込み、オリジナルまで編み出す始末だ。私も自信無くなっちゃったよ、ハハ」 レインの凄まじい猛攻を遠い目で見つめながら語りかけるアルベルト。 エステルは元よりレインはこのセカイに戻ってすぐアルベルトに保護され、強くなる事を望んだレインにアルベルトは自身の技を余す事なく注ぎ込んだ。 アルベルトの流派は元来のエルフ族における戦闘スタイルとは一線を画す物であった。マナの扱いに長け、魔法適性の高いエルフ族は主に魔法や弓などによる遠距離からの後方支援が得意とされており、元々争いを好まない部族である事から奇襲や、逃げに特化した戦闘法しか確立されていなかった。 しかし、その根底を覆したのが歴戦の英雄に名を連ねるアルベルト・オーウェンその人である。 本来は遠距離からの支援を本懐とする魔法を、その技術力の高さで近接戦闘特化へと昇華し武闘術と組み合わせる事で、武闘魔法という新たな戦闘スタイルをエルフ族にもたらした。実際、先の大戦ではその猛威を遺憾なく発揮し敵国を蹂躙。遠距離の魔法を掻い潜って近寄ったが最後、その拳が敵の戦意を完膚なきまでに砕く。 エルフ族はアルベルトを筆頭に驚異の戦闘種族となったのである。 その中でもエステルの才能と魔法技術は群を抜いており、本人に自覚はないがその技量は数百年に一人の逸材と謳われる程、しかしそのエステルに勝るとも劣らないのがレインだった。 「…エステル、トドメ…いくよ?」 「はい、レインちゃん、任せてぇ!キモいエリヤさんぶっ飛ばします!」 「顕現せよ––––猛火の檻フレアサークル」 エステルの行使した魔法により、異形の周囲に天井の開いた灼熱のドームが展開されジリジリとその範囲を狭めていき、レインが両手を天に掲げるとドームの上空に赤黒い靄が出現し灼熱のドームの真上に留まった。 …レインは雨が好きだ、祐真と出会ったあの日…降っていた優しい雨が暖かい気持ちを思い出させてくれる。 レインは自分の名前も大好きだ、あの日初めて与えられた『レイン』と言う名前に誇りを持っている。 だから、お気に入りの魔法に同じ名前を付けた、しかしこの『雨』は優しくない… 「…断末魔も残さず…朽ち果てろ……<グラビティ・レイン>」 魔王の様な捨て台詞と共に、行使された魔法はレイン独自の固有魔法。異形に向けて降り注ぐのは局所的な死の豪雨。 赤黒い靄の正体は拡散した重力球。その極小の礫は一つ一つが超重力の塊。その脅威が一斉に頭上から降り注ぐ。 ––––威力を例えるなら、それはまるで超電磁砲レールガンの雨…… けたたましい地響きと共に死の雨が異形向けて着弾してはその黒く禍々しい人外の体躯が爆ぜ、その全身をハチの巣状に四散させていく。 そして周囲に展開された、まさに鼠一匹逃げる事すら叶わない『猛火の檻フレアサークル』は完全に行く手を遮り逃走を許さない。 「まさに、地獄絵図だな。俺達の出番は無いっぽいぞギデオン?」 『あぁ、我も内心焦っている。あれ程の力…国をも滅ぼしかねん、アルベルトの奴め、とんでもないバケモノを育ておった…』 「バケモノって…強く否定出来ないのが悲しいけど、それよりエリヤはどうなったんだ––––」 不意に視線を彼の方へ向ける。いつの間にか膝枕をしているリリスと、レイン達の喧騒がどこ吹く風という様子で見つめ合う二人。。 「リリス、俺…リリスの事……」 「なに、えりやくん?もう一度言って欲しいな…」 「アオハルかよ!!そこのリア充二人!今そんな事してる場合じゃないだろう!?」 微妙に嫉妬を含んだツッコミを入れる祐真、実際以前の世界で彼女など居なかった祐真はちょっと羨ましかった。 「レインちゃん!!」 エステルの声が響き一同がレインの方へ視線を向けると、魔法を行使し終えたレインは反動で憔悴しその場に膝をつく。 「レイン!?大丈夫か!」 駆け寄った祐真が肩に手を回し、先ほど敵を蹂躙していたのが嘘の様に華奢な身体を抱きしめながら、その瞳を見つめる。 「…ゆうま、大丈夫…少しマナを使いすぎただけ……ふふ…本当にゆうまだ……ワタシ…わかる?」 レインはその小さな手で潤ませた瞳を心の底から待ち侘びた愛しい存在へと向け、祐真の頬を撫でる。 「当たり前だろ?姿形が変わっても俺がレインを見間違うはずがない…」 「ゆうま…」 何度この瞬間を夢見た事だろう、言葉を交わしたい、想いを伝えたい、思いきり抱きしめて愛しいあなたを全身で感じたい––––––。 ずっと側にいた、でも出来なかった…想いだけが膨らみ自分が人の身体でない事を呪った時もあった。しかし必死に言い聞かせてきた…一緒にいれるだけで、この温もりを感じられるだけで幸せなのだと。 ただ、人の姿でない自分には彼を幸せにする事は出来ないのではないか…もし彼が別の女性に想いを寄せたら自分は耐えきれるのだろうか、そんな不安と恐怖が時折彼女の心を襲い、言いようの無い孤独感に苛まれながらも必死に、それでも…と言い聞かせてきたのだ。 だからこそ、レインは彼が祐真の一部である理解した時、命をかける事を躊躇わなかった。彼を救うことが待ち侘びた愛しい人を救う事になると感じたから… 祐真の温もりと暖かい言葉に、レインは安堵し身体を回復させようとする本能に従いゆっくりその意識を手放しかけた時、レインの脳裏にある映像がフラッシュバックする。 『えりやくんの事を何かの一部としか思ってない人に私は…負けない』 力強く自分を見返すリリス。 『フフ、俺がレインの瞳を見間違えるはずないだろう?』 その瞬間は確かに祐真であった。彼の一部––––。 レインは手放しかけた意識を再び呼び起こし、その瞼を開くと心配そうに自分の顔を至近距離で見つめる祐真に少し頬を染めながらもリリスと共にいる彼の方へ視線を送り、その姿をジッと感慨深く見つめ再び祐真にその視線を戻す。 レインは混乱していた、なぜこうなったのか理由は分からない。先程命懸けで救おうとしていた彼も祐真である事に変わりはない、そう確信したからこそ命を投げ出せたのだ。 しかし目の前にいる祐真は、レインと同様その姿は変われど間違いなく心から愛し求めたその人。 だからこそ、どうしたらいいのか分からずに困惑するしかなかった。自分にとってはどちらも同じ大切な存在…ただ確かに自分は彼の事を『一部』として見ていた、そんな時に彼を一人の『個』として『エリヤ』という人として真っ直ぐにその想いをぶつけるリリスに、レインは歯噛みしながらも何も言い返す事が出来なかったのだ。 「…ゆうま、ワタシ…くやしい…ワタシは誰よりも、ゆうまを愛してる…だけど…彼に対しては…あいつに負けている気がする…」 レインはポツリと言葉を漏らしながら、リリス達の方に憂いを帯びた視線を送る。 「ああ、エリヤか、正直俺もこれからどうしたらいいのか…俺とあいつは二つで一つの筈なんだが、どうやらあの不気味な奴が関係してそうだ…それに、あいつの中心にいた女は…」 祐真も困惑気味に彼の方へとその視線を送り、その表情に暗い影を落とす。 「もし、俺達が一つに戻れて…エリヤという自我が消滅したら…あの子は––」 「ちょっとぉーー!いつまで感傷に浸ってるんですか?!そろそろトドメ行きますよぉ!!」 エステルが叫び声をあげ、全員が燃え盛る檻に閉ざされた異形へと目を向けると同時にエステルは右手を前に翳し虚空を力強く掌握する、ドーム状に広がっていた『猛火の檻フレアサークル』がその口を閉ざす様に中心へ集まり注ぎ込まれ覆っていた範囲全体を灼熱の猛火が舐め尽す。 徐々に炎の勢いが弱まり、核兵器が直撃したかの様なその場所には文字通り跡形も無い。直径数十メートルの地面が灰と化した…巨大なクレーター状に削がれた地表以外そこには何も残っていない。 「終わったのか…?」 「……ゆうま…それ言っちゃダメ」 瞬間、地面から染み出す様にして無数の黒い手がその場にいた全員の足元に出現し、不意を突かれた祐真達は足や手、胴体などを黒い手に絡み取られる。ただ一人を除いて… 「くっ…なんだこの手は!!あれだけの攻撃を受けて消滅しないのか?!」 「……ゆうまがフラグ立てたから」 「しかし、これはまずいね…私たちが束になってかかったとしても勝てるかどうか…」 「キモいです、この手キモいですよぉ!」 各々が纏わり付いた黒い手を振り解こうともがき次の一手を思案するが、そんな暇は与えられない。 彼らの目の前に先程の半分程度の大きさとなった異形が地面から染み出し、その様相が露わになると同時。 半球状に開かれた大きな口に黒い光が収束。 目の前の全てを呑み込まんと巨大な暗黒の光が彼ら目掛けて放たれ––––––。 リリスは、感じていた。 祐真の話を聞いた時から、もし彼と目の前の人が元々一つなのだとしたら。 それはいつか元に戻ってしまうのではないか。その時、エリヤは消滅してしまうのではないか。 まだ始まってもない、自分とエリヤの時間はその時を刻む事なく終わってしまうのではないか… そしたら……また…私は独りになって––––。 私を助けてくれた人、感謝すべき人は沢山いる。でも、私はいつもどこか孤独だった。 気丈に振る舞い、出来る自分、役に立つ自分を演じてきた…生きる為に。 あの時…えりやくんに襲われて怖かった、壊されてしまうかもしれないと思った。だけど…それも良いかなと心の何処かで思ってしまっていた自分に気がついたんだ。疲れていた…生きる為他人に対して完璧でいる事に。 辛かった…誰にも弱さを見せず、本当の自分を知る人が一人としていない事が。 ただあの時、彼は目の前で崩れ…まるで小さな子供の様に、今壊そうとした私に寄りかかり泣いた。 その弱々しい身体を両手で抱いた時、何故だかどうしようもなく愛しく感じ、同時に…私を知って欲しい––––私の弱さも知って欲しい。この人となら、独りにならなくて済むと思った。 傷の舐め合いだと言う人がいる… 何が悪いの?本当に傷付き孤独を味わった者同士が寄りかかってお互いを慰め合う事の何がいけないの…本当の孤独を知らない人達に何がわかるの…… 出会ってまだ数時間、だから何? 私にとっては今まで生きて来た年月よりも、かけがえの無い時間だった。 私の思い込みかもしれない、押し付けかもしれない。でもあの瞬間、彼の弱さに孤独に触れた瞬間、分け合えた気がした。私だけが理解してあげられる気がした、彼だけが理解してくれる気がした。二人だけの孤独を… だから、どちらにせよ彼を失うぐらいなら、今この闇に飛び込む方が、私にとって救いかもしれない。 ありがとう、えりやくん。 キミをもっと知っちゃうと、私ワガママが止まらなくなりそうだから。 キミが…キミの一番幸せな場所に行ける事を祈ってるよ。 「リリス––––?!」 彼女は誰が動くよりも早く、異形の大口から放たれようとしている暗黒の光に向かって立ちはだかった。 「私が弱いから、その手は私を縛らなかったの?確かに私は弱い…あんな凄い魔法私には使えない…だから何?」 「弱い奴は命はれないとでも思った?ナメんな、恋する乙女ナメんなぁ!」 「極光の大盾ホーリーシールド––––––!」 そこにいた全員を守る様に上級魔法である巨大な光の盾がリリスの目の前に展開されると同時に暗黒の閃光は一直線に放たれ、全てを呑み込まんとその軌道にある全てを暗黒色に塗りつぶす。 自分の力では恐らく数十秒が限界、それだけ耐え凌げれば良い方だとリリスは理解していた。 それだけ時間が稼げれば、祐真やエステル達なら策を講じることが出来るはず。この盾が砕かれる時が自身の最後なのだと…覚悟を決め精神を集中し、ゆっくりと瞼を閉じその時を待つ––––––。 どのぐらい時間が経ったのだろう……目を瞑ってからの時間がひどく長く感じられる。 いつまでも来ない終わりの時に僅かな焦燥を感じ、恐る恐るその目を開く…その眼前に映っていた光景を目にしたリリスは表情を驚愕に染め、膝下から思わず崩れ落ち、まるで泣き方を知らない子供の様に顔をくしゃくしゃに歪め大粒の雫が止め処なくその頬を伝う「えりやくん…」。 その掠れる声は、目の前に立つ愛しい人へただ真っ直ぐに投げかけた精一杯の一言だった。
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