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魔法が常識とされる異世界。
この世界では魔法使いが職業となっており、資格制度がありながらも高い人気を誇る。
魔法使いを育成する学校もできた。なかでもメイガス魔法学院といえば、卒業と共に資格を得ることができるとして超の付くほどの知名度を誇る。
そのメイガス魔法学院の生徒で、ひと月前から二年生として通うことになっているランドル・ステイシーは――
「シンカーン! シンカーン! マジックタイムズ新刊だよ~」
「一部くれ」
「ハイヨー! あっりがっとさーん」
ぶらぶらと街を歩きながら暇をつぶしていた。
別に今日は休日ではない。本来であれば彼は学校に行って授業を受けていなければいけない。だが、学級が始まってから彼のクラスは担任が急遽仕事ができなくなり、二週間ほど代わりの講師を選出するのにかかった結果、彼は面倒になって学校をさぼっている。
ランドルの腕は悪くないのだが、授業態度や勉強に対する姿勢が悪く、サボりは当たり前として、学校へ行ったとしても話を聞かない。居眠りをするなどやる気が全く見られなかった。
今も面倒になったからという学校側にも責任があるように言ったが、彼は例え新学期から真面目に授業があったとしても休んだだろう。
そんな彼のサボり癖は、街の中でも有名だったのだが、今日は少し違った。
「ランドル・ステイシー?」
「ん?」
彼が先程もらったマジックタイムズを見ながら朝ご飯がわりのサンドイッチを食べていたら、後ろから銀の髪を靡かせる少女に声をかけられた。
「クレア・マッケンジー。貴方の学級のクラスリーダー。あなたに学校に来てもらう」
「え、やだ」
即答だった。まぁ、彼が二つ返事で行くようならば、さぼることなどしない。クレアと名乗った彼女もそれを分かっていた。故に――
「いやでも来てもらう。『レビテーション』」
彼女は強硬手段に出た。自分の得意な風の魔法を使い、彼を浮かせて強制的に学校へと思向かせる。が、彼もそれで素直に学校に行くなどという行為はしなかった。
「『フロスト』」
氷の魔法を扱い、空気を凍結させることでクレアの魔法を無効化。さらに、自分の足場も凍らせて滑るように逃走する。想定外の方法で抵抗されたことで クレアは一時呆然とするが、すぐさま追いかけた。しかし、結局授業時間内に彼を捕まえることはかなわなかった。
その日から、クレアとランドルの魔法を使った高度な鬼ごっこが始まった。
ある時は『ブースト』という身体能力を向上させる魔法を使って猫のように街中をにげていくランドルを、『ウィンディ・フェザー』という、風を使って自分の脚力を強化する魔法で追いかけたクレア。
この日はうっかり滑って転んだランドルが捕まって学校に行かされた。
ある時は『ミスト』という発動者の周囲に霧を発生させる魔法を使って霧に紛れて逃げようとするランドルを、『ガスト』という風邪を起こす魔法で霧を晴らしながら探したクレア。
この日はランドルが上手く路地裏に隠れ、クレアが見失った。
またある時は街外れの森林に逃げたランドルが、『クリエイション』という土で壁を作る魔法を使い、迷路を作って逃げようとした。
だが、これはクレアが『ゲイル・ブレッド』という風の弾丸を飛ばず魔法で壁を壊し直線に来たことで対応が間に合わず、ランドルは捕まった。
何度も何度も鬼ごっこを繰り返し、街の人々にとっての朝の名物的な扱いをされ始めた三週間ほどたったある日、ついにランドルが音を上げた。学校に行かないためにさぼっているのに、そのためにこうまで必死になって逃げるのでは学校に行く方がよっぽどマシだと思ったが故の行動だった。
そして、始業から二月立とうとした頃、彼は自分の意志で始めて、二年の教室へと赴いた。
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