幸福な子ども

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幸福な子ども

誰もが羨望するような邸宅にフロリアンは次男として産まれた。生活に困窮することなく裕福に過ごせる家庭、ダイニングルームには大きな一枚窓がありそこから望める庭園には美しい薔薇が咲き誇っていた。 この日は兄の結婚記念日ということもあり、テーブルに並ぶのは一族囲んでも有り余るほど素晴らしいものだ。瑞々しく張りのある果物、とれたて野菜をふんだんに使ったサラダ。注目すべきは中央に置かれた大きなまるまるとした肉、香ばしくかりっと焼かれほくほくと湯気が立ち上っている。 「凄いな。この肉はどこのだい?」 一族は皆これが何から出来ているのかを知っている。 グルメの家主が求める肉をシェフが探して買ってくる、自分好みの味になるよう地下室で飼っているほど。 「こちらは南のファームから直送したものです。葡萄が豊富な南産は肉もまたフルーティーな味がすると人気があります。若い雌ですので柔らかく程よく脂がのっています」 シェフの言葉に美味しそうだと微笑む一族に、とんだ悪食だとフロリアンは顔を歪ませた。ファームだとか、直送だとか、食べ物を指す言葉を並べているがあれは人間だ。同じ言語を話し、自らの家族がいる普通の人。それを食べるなど吐き気がする。 「フロリアン、君もたまにはどうだ」 ちまちまとプチトマトを口に放り込んでいたフロリアンに向かって、兄が取り分けた肉をフロリアンの皿に乗せようとした、全身に鳥肌が立ち、食べたばかりのプチトマトが逆流しないように口を押さえて立ち上がった、酸っぱいものをなんとか飲み込む。 「止めてくれ!!あんた達と同じ食卓に付いているだけでも吐き気がするのにっ!!」 立ち上がった時にテーブルクロスを自分のほうへと引き寄せたために、皿が滑り落ち、割れる音と共に野菜が床に散らばった。水が零れて父親が眉を下げてシェフに拭くものと水の追加を頼んだ。 「いい加減に意地を張るのも止めなさい。前にも言ったけれど、あなたが食べたトマトだって、キャベツだって生きていたものなのよ?肉だって同じことよ」 同じじゃない、全く違うものだ。フロリアンは母親の言葉に首を横に振るった。 価値観の違いは埋めようもない、フロリアンが彼らを怪物にしか見えないように、彼らはフロリアンを徹底したベジタリアンとしか見ていない。耐えられなかった。 「ごちそうさま」 食卓を早々に引き上げた、彼らと自分が同じ形をしていることが信じられない。
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