いつか、三時の向こう側

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 *** 「……で、つまり太陽は、まだお菓子代の誤魔化し方で頭を悩ませている、ってことであってる?」 「正解。この際だから僕ははっきり言ってあげよう。無い頭絞って小細工考えたって、お前の頭で思いつくのは無理だ。すっぱり諦めろ」 「お前ら酷くない?ここ最近いつにもまして俺の扱いが乱暴になってない?」 「太陽だからね、仕方ないね」  あはは、と再び笑い声が上がる。私は気づいていた。みんなは遠足に、スマホかカメラを持っていくことが許されている。だから写真をたくさん撮ることもできるし、多少はお土産を買っても怒られることはない。なのに。  三人のうち、誰ひとり。お土産を買ってくるね、とは言わない。写真を撮って見せるから、とも言わない。全部全部、私の為に言わないのだ。それがどれほど私を苦しめるのか、彼らは正しく理解しているから。 「……ねえ、みんな。あのね」  本当は、気づいていた。笑顔を溢れさせながらも、みんなが何を――何をこんなに不安にさせて、心配させて、悲しませているのかを。  私が、余命宣告を聞いて、それですぐに諦めたから。  どうせ大人になれないのなら、今だけ楽しければいいと、生きることに必死にならなかったから。  彼らは本当は、ずっと伝えたかったんだろう。私に頑張って生きて欲しい、と。辛くても、未来に向かうことを諦めないで欲しい、と。  生きていれば、遠足はまたできる。それが小学校の遠足というたった一度のイベントでなくても、そこに彼らがいなくても――生きてさえいれば、未来は繋がる。それを忘れないで欲しいと、あの日瞬はそう言いたかったに違いないのだ。 「私ね。……みんなのおかげで、土曜日はいつも、いつも本当に楽しかった。この時間がずっと続けばいいって、そう思ってたよ」  どんどん視界が滲んでくる。声が、情けないくらい震え始める。それでも私は、言わなければいけない。 「遠足の話聞いて、私も行きたくて……みんなと一緒に行けないの、すっごく悲しくて、寂しくて。みんなのことも、お母さんのこともすっごく困らせた。本当に、ごめんね。駄々をこねたって、どうしようもないのにね。……私、今でも本当は、みんなと一緒に行きたかったってずっと思ってる。行きたかった。……そしたらずっと、みんなと一緒にいられたかもしれないのに」  余命宣告を受けても、私さえそれを受け止めて、諦めていれば誰も悲しくなんかないと思っていたのだ。  そうではなかった。みんな、私がいなくなることを恐れて、悲しんで、心配して――生きるために頑張って欲しいと、強くそう願ってくれていた。それがどれほどの苦しみであることか、私は今になってようやく理解できたのである。  逆になって、やっとわかった。  私はまったく想像も、想定もしていなかったのだから。――余命を宣告された私よりも先に、大切な人達がいなくなるなんてことを。 「遠足に行ったら、私もみんなと一緒に……消えることが、できた。去年行けなかった遠足を、私はいつまで引きずり続ける気だったのかな。……そんな私が心配だったから、三人はずっと、ずっと私のところに来てくれたんだよね?」  私はもう、中学生と呼べる年になったのに。彼らはずっと、小学生のまま。  去年。彼らが遠足で乗ったバスは事故を起こして――みんなの時間は、そこで終わってしまった。  元気で、光に溢れた未来がたくさん待っていた筈の彼らの方が、私よりも先にその未来を閉ざされてしまったのである。
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