喰われ姫

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その姫は、泣きながら熱に(うな)されていた。 息は荒いが、空気をほぼ取り込めていない。眉を潜めたその顔は、苦悶に満ちている。そして、それを冷たく見下ろす梦月(むげつ)の醜悪な姿が御帳台(みちょうだい)の柱に掛かった八稜鏡(はちりょうきょう)に映し出されていた。 (若い身空で死なねばならず、挙句鬼に目を付けられ、体を奪われるとは、ここまで仏に見放された姫もおるまい…。) 梦月は第三の目を閉じて、ゆっくりと開いた。もうそこは、大君(おおいぎみ)の夢の中。真っ白な虚無の空間だ。大君の張り裂けそうな程の心痛を反映して、空間は所々ひび割れている。 そこで大君は、真っ白な小袖(こそで)姿で(うずくま)っていた。 「…大君よ。」 梦月に声かけられ、恐る恐る顔を上げた大君。梦月という異形の姿を見た瞬間、大君は悲鳴を上げた。 「ひぃぃ!!お許しを、どうかお静まり下さいませ!」 震えて許しを乞うその姿は、哀れに思う程か弱い。 梦月はじっと大君を見下ろした。 「大君よ。そなたはまもなく病で死ぬ。」 なんの躊躇(ためら)いもない宣告。大君はその言葉を聞くや否や目を見開いて、そして震えながら首を横に振った。 「い、いや…!!嫌でございます!!!お父様の夢である入内(じゅだい)も果たせず、何も成し遂げられぬまま死ぬなど、許されません!!お願いでございます、どうか、どうかお許し下さいませ!!!」 きっと大君は、梦月がその病の原因である物の怪だと思っているのだろう。必死になって頭を垂れて、手を合わせて梦月に懇願をしている。梦月はゆったりと笑って、骨を軋ませながらしゃがんだ。 「(わらわ)はそなたを死に追いやる物の怪ではない。妾は、そなたを救いに来たのだ。」 梦月は縦筋の入った長い爪先で、大君の輪郭をなぞる様にして撫でる。大君はそれだけで恐怖を感じ、体を大きく震わせたが、梦月の話にはしっかりと食い付いた。 「すく…う?」 (…かかった。) 内心ほくそ笑む梦月。 梦月は猫なで声で「ああ、そうだ。」と頷いた。 「苦しいのだろう?辛いのだろう?父の期待を背負って、ここまで美しく成長したのに、そなたは何も出来ず、何も果たせず死んでいく。父の期待に応えられない我が身が恨めしかろう。 父は悲しみ、落胆するに違いない。せっかく大事に育ててきたのに、たった一人の娘なのに。せっかく、入内することになっていたのに。 なぁ、大君よ。」
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