1219人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ…、」
梦月の喉から掠れた声が漏れた。
見られてしまった驚きで、梦月はじりっと後ずさりする。すると男の童は目を丸くして、しげしげと梦月の顔を確認した。
「わぁ…、お目々が三つ!どうしたの?なんで此処にいるの??」
どうしたの、ではない。寧ろ、この童こそ梦月にしてみれば「どうしたの?」だ。
普通の童は、三つ目の猫など見れば恐怖で叫び、泣き出すだろう。それをこの童は、驚きもせず興味深げに梦月を観察している。この童の感覚こそどうなっているんだと思いながら、梦月も籠の奥からこの童の出で立ちを見た。
歳の頃は、四、五歳といったところか。
漆のように黒々とした艶やかな髪は、既に髪削ぎを済ませたようで、肩の辺りで綺麗に切りそろえてある。頬は幼子らしくふっくらとしており、うっすら桃色に色付いていた。そして、その目は優しげで穢れなど全く知らないような透明感がある。
さらにいうならば、身に纏っている半尻の美しいこと。鶸萌黄色に染められた生地は、幸菱の文様になっており、仕立ての質も非常に良い。
(…どこかの上流貴族の家の子息、といったところか。)
この恐れ知らずの純粋そうな童を上手く誘導すれば、ここから逃げれるかもしれない。そう考えた梦月は、ちょんと前足を出した。
「可愛い若君様、もし宜しければ、此処が何処なのか教えて下さいませ。」
梦月が喋ると、童は目を爛々と輝かせた。
「喋った!お話できるの??」
梦月の質問は無視である。子供と思い通りに会話することは容易なことではない。しかし、ここから逃げるには現状この童に協力してもらうしかない梦月は、苛立ちを抑え、更に前に出た。
「そうです、私はお話できるのですよ。この三つ目を珍しがった悪い奴等が私をこ、」
「すごい!ねぇ、お名前はなんていうの??」
人の話を聞かない童である。
梦月は思わず苦笑いした。
「…梦の月と書いて『梦月』です。ここはどこですか、若君様。」
二回目で、ようやく童は「ここ?」と首を傾げた。
「ここは茜の宮のお祖母様の屋敷だよ。」
茜の宮とは梦月が助けようとしている帝の一代前の帝の娘だ。梦月は即座に記憶の糸を手繰り寄せる。
(茜の宮…?貴族共が話しているのを聞いたことがあるぞ。確か中宮腹の第三皇女だったはず。とすると、ここは中宮の母の実家ということか…。)
「何故、若君様は此処に?」
優しく、猫撫で声で梦月は問うた。
最初のコメントを投稿しよう!