第二十一章 手ごわい彼女

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第二十一章 手ごわい彼女

「なかなかやるやん、自分。」 料理を振舞い、アルコールも程よく回ってきたあとで 上機嫌になったハルカさんに褒められて、 アキヒトは有頂天だった。 酔って気持ちがほぐれたのか、 リラックスした雰囲気で、潤んだような目元が充血している。 “色っぽいなあ。” ゴクリと生唾を飲み込むと、そ知らぬ顔でコーヒーを点てた。 「お砂糖とミルクは使いますか?」 「いや、ストレートで。」 ブラックとは言わないんだ、と妙な事で感心する。 確かに紅茶はストレートというからそれが本式なのかもしれない。 「コーヒー、美味しい。」 彼女が嬉しそうに言うのを、アキヒトも嬉しそうに見ていた。 この人の顔ならずっと見ていられる。 「アッキー、うちの顔何か付いてる?」 不思議そうに見られ、彼は動揺した。 もちろん何も付いてなどいない。 が、ふといたずら心がむくむくとわきあがってきた。 「何だろ?ちょっと何か付いてるみたいだから 取ってあげますよ。」 言いながら、アキヒトはハルカを引き寄せ おもむろに口付けた。 「!?」 軽く抵抗されるが、ぐっと抑え込みキスを続ける。 想像したよりも深く、溶ける様な衝撃が彼を襲う。 そのままもっと先まで進みたいのは山々だが、 理性で押しとどまった。 “もう、いいかな?” そう思ったところで、身体を離す。 「何、すんねん。」 困ったような、怒ったような。どうとでも取れる表情で彼女は言った。 明らかに取り乱していて、頬が上気している。 シャツの襟元から覗く肌が、赤らんでいた。 “エロい。” アキヒトは再び、ごくりと生唾を飲み込む。 「ハルカさんだって、嫌じゃないよね?」 そういって再び彼女を抱きしめる。 「男の家に二人きりなんだから、 こういう展開も充分ありうるでしょ。 それとも俺のことは男とは見てなかったの?」 賭けてもいい。そんな事はないはずだった。 からかわれるのも、他のスタッフはやられずに自分だけだし 亀井先生からも 「ハルカはアッキーのことが好きやで。」と言われたくらいだ。 「・・・・・・嫌じゃないよ、そりゃ。 だけど、こんな突然来られても心の準備ってもんが。」 恥ずかしそうに言われて意外に思う。 「思ったより、純情なんですね。」 とアキヒトが言うと、彼女は真っ赤になった。 「うるさいわ!そもそも話があったんと違うか?何の話や。」 「今この状況でそれ持ち出します?」 「今、この状況だからや。はっきりさせへんと気がすまんねん!」 キッと睨まれる。 どうも流れのままに 寝技に持ち込むことは許されそうにないと アキヒトは渋々姿勢を正した。 「ハルカさん、望が来てから俺に冷たくなったでしょ?」 「望?」 「俺の、元カノです。あの子が来てからハルカさん、おかしいです。」 「そうだっけ?」 しれっと言うが、少し動揺した顔をしている。 「ねぇハルカさん。 ずっと俺のことからかってるけど、好きなんでしょ? はっきりさせましょうよ。」 もう一押しだ、とアキヒトはハルカを再び抱きしめた。 顔をそらされたので、首もとにキスをする。 彼女の身体が反応した。 「アッキー、ダメ。それは卑怯や。」 潤んだ瞳でハルカさんが言う。 「ここ、ダメなの?」 キスをした場所をそっと舌でたどると、 「あっ、いやっ。」 と甘い声で言われた。 “やばい、たまんねえ。” そう思っていると、突き飛ばされる。 すごい力だった。 「アッキーのバカ!エッチ!!」 彼女は泣いていて、アキヒトは申し訳ない気持ちと 今すぐにでも襲い掛かりたい気持ちを持て余していた。 下半身はすでにスタンバイオッケーである。 「エッチだもん。」 半ば開き直って言うと、呆れた顔をされた。 「そうやなくて、アッキーはうちのことどない思ってるの?」 「あ。」 そうだった、いつもこの手でごまかして 流れのまま女の子をモノにしているので すっかり失念していた。 「うちかてもう流れでどうかなるほど若くないねん。 ちゃんと言ってや。」 大きな目に涙が溜まっていく。 こぼれ落ちそうなそれを見て、アキヒトは動揺していた。 「ごめん、俺ハルカさんの事好きです。 初めてお店で見てから。」 思わずそう口にする。 真面目に女の子に告白するのは、生まれて初めてだ。 その事に気付いて、ドキドキする。 ハルカさんがまばたきを数回して 頬に涙が流れていった。 水晶のように滑り落ちてゆく。 こんな綺麗な涙を見たのは、初めてだった。
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