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「……おれ、もう間抜け振り晒しちゃってる」
「へえ、なにやらかしたの?」
目を輝かせてそう聞いてきた稔が憎たらしい。
和夫の机の横で立ったまま話をしていた稔が、空いている手前の机の椅子を引いて勝手に座り込んだ。にこにこ早く言えという顔を和夫に向けている。わくわくしているのが手に取るようにわかる。
「……言っちゃったんだよ、この間」
あれはきっと香夜子よりも和夫本人が驚いた。あんなにさりげなく好きだと言えてしまったことは不思議だった。好きだなんて自分から言えたことがない。
「で? 何を言ったの?」
言いたくないけれど、言わなければ稔が延々教えてと聞いてくるに違いなかった。
「好きだって言っちゃったんだよ」
意外な返答に稔は驚いた。
あれから数週間が経った。香夜子は変わらず接してくれて、頭を撫でてしまっても照れくさそうに笑ってくれる。
「困らせていないか、不安」
「不安なのに嬉しそうな顔してるって、それも間抜け」
「嬉しいんだもん」
「でも不安なんでしょ?」
「それとこれは別なんだよ」
あまりにも和夫が嬉しそうに言うから、稔は一応うまく行くことを祈ってあげた。憧れの先輩やいい人止まりで済まないといいねと。
見ているだけで面白いから、面白い事態が起こる時だけは応援してあげようと思う。
全く見ていて飽きないと、稔は和夫と居ることが楽しくて、とにかく好きだ。
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