第三話

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「あれ? 思ったより空いているかも?」  学食に辿り着くとなずなが呟いた。 「えーとね、なっちゃん。空いてるんじゃなくて、やたらと広い気がしない?」  香夜子の言った通り、学食はやたらと解放的で広い。  と、理由を思い出した香夜子が言った。 「文化系の部活がね、ここを借りて発表会することがあるって聞いてた!」 「講堂じゃないんだ!」  なずながそう返すと、「うん!」と弾んだ声で香夜子が言った。 「アリ先輩たちが言ってたの納得。解放的で素敵な雰囲気だものね、ここ」  そうして念願の学食の風景を二人は目を輝かせて眺めた。  教室の三倍以上に広く見える学食内を見渡す二人の向こうは全て窓だった。芝生の広がった中庭へ出られる大きな窓が並ぶ。壁に飾られている幾つもの絵画は美術部員の描いたものだ。窓と壁とカウンターと廊下に囲まれた空間に、長テーブルの席が迷路のように並んでいる。 「ねえ、二人とも何してるの?」  後から追いついた亜樹也と寛太はどうせこんな具合だと想像が付いていた。  亜樹也はわざとそんな風に尋ねてみたけれど、寛太は二人とも間抜けだなと思いながら言った。 「……お前らさ、席取っておくとかしてくれてもいいじゃん」  なずながこういう状態でいるのはわかる。香夜子なら気回りが利きそうだけれど、なずなと一緒になってこのさまということは。二人して随分と感銘を受けたのだろうねと亜樹也と寛太は笑い出しそうな目を見合わせた。 「だって、すごいじゃない! 席なんて後!」  そう言ったなずなに対して、目を輝かせたまま香夜子は「ごめんね」と肩を竦めた。  寛太と亜樹也は一度学食を覗きに来ていたから、二度目はもう驚かなかった。なずなと香夜子に学食が面白そうだと教えたのも二人である。反応が面白そうだから、どう面白そうかは教えてあげなかった。  昼食を教室で摂る者、学食で摂る者もいれば、部室や他の場所で楽しむ者もいる。そう考えると、この学食は十二分にだだっ広い。
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