第三話

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「そろそろ席取って買いに行こう?」  香夜子が声をかけると、なずなが花を咲かせたような笑顔で頷いた。  とにかく広い。四人が来た時間帯も早いから、まだ席は選びたい放題だ。  うきうきと席を選び悩むなずなを、香夜子は澄んだ心地好さを感じながら眺めた。二人を亜樹也と寛太がやはり澄んだ心地で見つめる。  この一瞬に刻み込まれた自分たちの姿が、まるでくっきりと浮かび上がるようだった。  なずなに席取りを任せるのは間違いだったかもしれない。いつまで経っても気移りして決めてくれない。しかし、口を出せば文句を言われることなどわかっているから寛太は黙っていた。しっかり顔に出ていて、香夜子と亜樹也が何も言わずに笑った。  漸く場所が定まって、食券の購入場所へ向かう。 「売り切れてたらどうしよう」  はらはらしているのは、真剣な顔で発券機の前でメニューの並びを確認していくなずなだけだ。早めに来たのだから売り切れなんてないとみんな思う。 「あった! やったー!」  そう言ってなずなは嬉々とお金をちゃりんと投入してボタンを押した。吐き出された食券を掲げて感動している。  そんななずなを寛太が退かし、それぞれ食券を購入しカウンターへ並んだ。  学食へ来たのは、メニューにも目的があった。  学食の名物メニューをどうしても食べたい。  なずなが急かしたり売り切れると騒いでいたのはそういうわけだった。  カレースパゲッティというものを求めて学食へ遣って来た。  香夜子が昨日級長会のみんなに学食へ行く話をした時に、全員が声を揃えて言っていたのが「カレースパ!」。絶対に食べるべきと念を押されてたからにはどうしても食べてみたい。
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