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第四話
学食の窓際、陽当たりが良い場所で和夫と稔は数人のクラスメイトと共に昼食を摂っていた。近くで聴こえるやたら賑やかな話声に、二人はたまたま視線をやった。
「キノちゃんだね、和夫」
稔が和夫を揶揄った。
そういえば、一緒に昼食を摂ったことがなければ学食で香夜子を見かけたこともない。級長会、委員会室での活動、その後の下校時やたまに登校時、和夫はそれ以外の香夜子がどんな顔をして過ごしているのかを知らない。
話で盛り上がっている他の友人たちに和夫が声を掛けた。
「なあー、おれたちちょいと移動するわー」
俺たちということは自分もかと稔は思った。こういう時なら面白いから応援してやらなくもない。
稔は先に席を離れて香夜子たちのところへやって来た。そうして同席しても良いかと聞こうとしたのに、思わず違うことを言った。
「あ、やっぱり。カレースパ食べてるんだね」
寛太となずなは壇上に居る稔しか見たことがない。生徒会長にいきなり声をかけられた二人は、驚いてから香夜子を見た。声を掛けた稔は香夜子を見ている。
「キノちゃん、僕たちここに来ても良い?」
そう言った稔が和夫の方を見たから香夜子もそちらに視線を遣った。
和夫を捉えた香夜子が柔らかく微笑んだ。その様は嬉しそうで照れくさそうで、そんな香夜子は安堵を覚えていた。みんなと一緒に居るのとは違う安心感を和夫はいつだってくれる。
亜樹也が先日の寛太のことを思い出して笑い出した。思いっきり寛太の方を見て笑っていると、寛太が青くなりかけた。なんとなく気付ているなずなが馬鹿にした目を寛太に遣ったのだ。
「どうぞ!」と言ったのは香夜子ではなくなずなだ。
「よかった、ありがとう」
そうして微笑むと、稔は和夫へ知らせに戻った。
「和夫、来て良いって」
「どうして稔が聞きに行くわけ?」
「直接断られたら、どうせ和夫落ち込むでしょう」
それを言われると和夫はぐうの音も出ない。稔にはいろいろ知られ過ぎている。全部自分のせいだけれど。それはさて置き、嬉しい出来事に和夫の相好は全開に緩んでいた。
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