第四話

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 香夜子の隣に和夫が遣って来て、稔はその向かいのなずなの隣に腰を下ろした。  なずなの隣は亜樹也、寛太が今くらい隣は嫌だと言い張ったためだ。同じような理由でなずなは今香夜子の前に座っている。教室の机を挟んで話すのと気分が少しだけ違った。 「おれたち邪魔じゃない? 香夜ちゃん」  腰掛けようと椅子を引きかけて、和夫が言った。稔は当に座っている。そして、こちらに行くと言い出したのは和夫だ。やっぱりこういう時の和夫は間抜けだなあと稔は面白くなった。 「邪魔だなんて」  委員会室以外で和夫と過ごせることが嬉しいと言える度胸は香夜子にはないけれど、あまりにも嬉しそうに言うから、和夫はなんだか照れ臭くなってしまった。うっかり手が香夜子の頭に伸びそうになって、慌てて引っ込めた。 「うん、なら良いんだ。ありがとう」  和夫の朗らかさに香夜子はほっとした。和夫の笑顔はいつもほっとさせてくれる。我儘なのはわかっているけど、和夫だって忘れていいとわがままを言っている。  和夫は腰を下ろすと、四人が食べているメニューを見て勢い良く言った。 「全員、カレースパ!」  そういう和夫もカレースパである。稔は和夫がカレースパ以外のメニューを食べているところを殆ど見たことがない。今日の稔は弁当。学食で弁当を広げてはいけないというルールはない。和夫と稔は弁当持ちの日もいつも誰かとここで昼食を摂る。  寛太の斜向かいでなずなが今日一番の嬉しそうな顔をしている。 「美味しいだろ!」  自分の好物をみんなで食べてることに嬉しくなった和夫の目が輝いている。 「美味しいです!」  全員が美味しいと言いかけてたところに、満面の笑みのなずなが一番に答えた。 「だろだろー! これ食べちゃったらもう他の食べられなくなっちゃうよ」 「そんながします! えーと……アリ先輩が教えてくれたんですよね?」  そんな遣り取りを始めた和夫となずなは一瞬で意気投合してしまった。  和夫となずなの楽しそうな顔を交互に見つめて香夜子がくすくす笑っている。二人の笑顔は心をときめく形に緩ませてくれる。 「あ、おれの名前知ってたんだ!」  名前というよりニックネームだよね、と和夫の向かいで稔が肩を震わせて笑っている。上戸の亜樹也はとっくにくすくす笑いだしていた。寛太は、なずなはどこへ行っても相変わらず過ぎるとため息を吐きたいけれど、昼食が不味くなるから諦めて和夫と稔に興味を移した。  ただ、寛太はどうしても気になって仕方がなかった。駅で見かけたあの時よりも、香夜子と和夫の距離感が縮まっている気がした。胸は温かみを覚えたのに、どこかにきゅうっとしたものが残るった。
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