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その瞬間だった。
「野村、前に出てきてこの問題を解いてみろ」
と先生が私を指名した。黒板を見ると数式が書かれている。三次関数の極大値と極小値を求める問題。だけど、ぼんやり窓の外を眺めていた私は先生の話なんて全く聞いていなかったし、問題も解けそうにない。思わず「わかりません」と答えようとしたその時、隣の席の美作和人がそっと紙切れを差し出してきた。それを受け取って見てみると、黒板の問題の答えが書かれている。
「サンキュ」
私は小声でお礼を言い、黒板に向かう。そして、白いチョークを握った私は、黒板に数式を並べる。
『f(x)=x³+3x²-9x-12
f'(x)=3x²+6x-9=3(x+3)(x-1)
よって、極大値は
f(-3)=(-3)³+3⋅(-3)²-9⋅(-3)-12=15
極小値は
f(1)=1³+3⋅1²-9⋅1-12=-17』
答えを書き終えると、先生は少し悔しそうな顔をして、
「正解だ。席に戻ってよろしい」
と言った。
おそらく、先生は私がぼんやりと外ばかり見ているものだから、授業を聞いていないと思い、わざとに指名したのだろう。だから、私が正答できるとは思ってもみなかったに違いない。
とはいえ、実際のところ、授業なんて全く聞いていなかったし、ノートもとっていなかったから、先生の企みを乗り切れたのは全て和人のおかげだ。
私は席に戻って座る前に、もう一度、
「ありがとね」
と和人にお礼を言った。
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