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「これ、使えよ」
和人はぶっきらぼうに言う。
「えっ!? でも和人はどうするのよ?」
「俺は走って帰るよ。俺の家までなら走って5分もかからないから大丈夫」
「だったら、和人の家まで一緒に入って行こうよ。そこから先はこの傘を借りて帰ることにするからさ」
私が提案すると、和人は、
「相合傘なんてゴメンだよ。変な噂立てられるだけだし、入学早々囃し立てられるのなんて嫌だから」
と苦笑いを浮かべて、雨の中に向かって駆け出した。すぐに激しい雨が和人を打ちつけ、びしょ濡れにしてゆく。私はそんな和人の後ろ姿を見ながら、受け取った傘をさして、家に向かって歩き始める。
結局、家に着くまで雨が止むことはなかった。私は和人の傘のおかげで殆ど濡れることなく済んだけれど、和人はきっと下着までずぶ濡れになったに違いない。もしかすると、鞄の中身までグチャグチャに濡れてしまったかもしれない。
和人には悪いことをしたと思うけれど、その優しさに助けられたのは事実だし、本当に嬉しく感じる。そして、その時から、私にとって和人はただの幼馴染から、少しだけ特別な存在に変わった。それと同時に、私はたとえ降水確率が10%でも、必ず傘を持って出かけるようになった。
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