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1 しくじったのは、一匹の下級悪魔だった
ーー願いを叶えるなんて、とっても簡単よ。こうすれば……きっと願いは叶うから。
やあ、みんな元気かい! 俺様の名前は、ベア。メルヘンチックで、ポップで、キュートなテディベアだ。でもな、ここだけの話、俺様は元々はヌイグルミじゃなかった。正体は悪魔、正真正銘の下級小悪魔なんだ。
俺様の長所は、小回りが利くこと。それを活かして仕事請負人をやっている。魔界列車で弁当売り、迷子になった魔犬探しから、半魚人から高価な人面魚を仕入れたり……結構忙しいが、俺様自身はそんな生活を気に入っている。
ところが、花の都パリで請け負った仕事のせいで俺様は窮地に追い込まれちまった。
どんなヤバイ仕事をしたのか、だって?
そいつはオークション会場での仕事。落札されたブツを、落札者に手渡す……ただそれだけ。とっても簡単で美味しい仕事さ。おまけに報酬も良いと来たもんだ。どうして、誰もやらないのかねえ、プップップ。俺様ラッキー内心シメシメって訳よ。
その日のオークションの目玉は、『カンタレラの夢映写機』。悪魔たちの間では飛び切りの値打ちモンだ。無事に落札されて、落札者がブツを取りに来るまでの間、俺様は独り控え室で番をする。
今回の報酬は気前よく即金払いだ。さぁて、仕事帰りに夜の街に繰り出して豪遊してやるかな? なんて考えていると、アレおかしいな? ふと睡魔に襲われ眠くなってきやがった。それで、ついウトウト……。目が覚めると、『カンタレラの夢映写機』は綺麗さっぱり消えてしまっていた。
落札者カンカン!
俺様オロオロ。道理で楽な仕事なのに報酬が高いのか、この時ようやく分かった。時たま、盗みが入るのさ! 盗みが! オークションに出品されたブツを狙う専門の泥棒が出るんだ。今日の目玉『カンタレラの夢映写機』は特にレア中のレアモン。だから、今日に限って誰も引き受けなかったんだ。
しくじっちまったぜ~。いかにも屈強そうな魔人どもがドシドシ集まってきやがる。案の定、俺様の吊るし上げが始まるらしい。「番人の下級小悪魔めが! どうせ、オマエがちょろまかしたんだろう?」と拷問かけてくるのがアリアリと目に浮かぶ。
ふざけるんじゃねえ! 俺様が盗んだだと? 冗談も休み休み言ってくれ!
地獄の戦闘王バールの名に誓って俺様はやっていない。ちなみにバールと面識無いけどね。おぅおぅ、そんなに疑うのなら俺様の身体、隅から隅まで調べてもらおうじゃねえか!
といった感じで逆ギレしてやるのも悪くはない。だが、きれいさっぱりドロンした。だって、落ち着いて考えてみろよ。俺様の言い分なんて誰も信じやしないさ。まんまとハメラレたんだ。きっと俺様の才能に嫉妬している何者かが、どん底に突き落とそうと企んだに違いない。
あっさり見切りを付けた俺様は逃げた。バイビー。アディオス! ご機嫌よう! ってな。
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