3 下級小悪魔、約束をする

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3 下級小悪魔、約束をする

 意外や意外。魔力が尽きかけ無残にアバヨと消滅しかけている俺様ベアを匿って介抱してくれたのは、一人の美人魔女サンだった。 「魔力を回復するまでは、このヌイグルミに入っていなさいな」と棚から取り出してくれたのは、一体のテディベア。  九死に一生を得る、とはまさにこの事。  すまねえ、見ず知らずの心優しい魔女サン。あんたの優しさ、眩しすぎる。ああ、なんだか女神様に見えてきたぜ。この借りは下級小悪魔から魔人にステップアップ果たした暁には、きっと数倍にして返しやすから、と情けが目にしみて俺様は涙涙、鼻水ズルズル。すると、魔女サンは笑ってこう言ったんだ。 「うふふふ。いいのよ、そんな事は。それよりも我が家にいる間は、時々あの子の遊び相手になってあげてね」  へっ? あの子? って、何処のどいつ?   と不思議そうに首を傾げた俺様に向って、指差したのは小さなベビーベッドだった。 「名前はね、美鈴というのよ」  そこには、まだ二歳になったばかりの女の子が……美鈴お嬢がスヤスヤと眠っていやがった。正直言ってガキは苦手。なんて言ったって、自分勝手で気ままで、おまけにウルサイことこの上ない。けれども、俺様は喜んで約束したんだ。  わかりやしたぜ、ママさん。この俺様が美鈴お嬢を見守りますぜ、ってな。そんなこんなで、俺様はちゃっかりテディベアとして魔力完全回復までママさんちに居候生活。もうかれこれ……そう、十年以上ってところだな。長い?  けれども、テディベアに乗り移った俺様の幸せで穏やかな日々も、終わりを告げることになった。美鈴お嬢が高校入学する間際の或る晩、突然起きた大火事。どうして火事が起きただなんて、原因は不明。俺様ベアを追跡してくる悪魔連中の仕業なのか?  だが、それにしてはやり方が酷すぎる。単に家に上がり込み、俺様が憑依しているテディベアを強奪すれば済む話だからだ。  あの頃の俺様は、全くの無力だった。またたく間に炎に包まれていくマイホームを、ただ唇を噛み締め睨みつける事しかできなやしない。そして、美鈴のママさんは……美鈴お嬢と俺様を残し天国にいっちまった。  突然の火事に、魔女のママサンは儚くも犠牲になった。ずっと世話になりっぱなしだった俺様は、すげえショック。ああ、少しでも恩を返しておくべきだった。夕食後の食器洗いぐらい手伝えばよかったぜ、とひたすら後悔したさ。地獄に行ってもママさん居ないだろうし、俺様は天国行けないし~。これから、どうすんぺよ、と途方に暮れる。気付けば、大きな問題が二つ、壁のように立ちはだかっていた。  まずひとつ目は、美鈴お嬢についてだ。お嬢には父親がいることはいたが、海外にずっと単身赴任。そこで一人ぼっちになった一五歳の美鈴お嬢は、この四月から入学する予定だった共学の公立高校を取りやめて、全寮制の私立女子高へと急遽入学変更。まあ寮で暮らした方が安心だからな。  その名は、七星学園。  気品溢れる校風で有名らしいのだが、まあ美鈴お嬢ならば平気さ。それに寮に入っちまえば当面の生活はなんとかなる。よし、これにて一件落着。って、俺様何もしてないじゃん。  次は俺様自身についてだ。実は魔力が全盛期の半分も回復していない。だから、もうちょいヌイグルミの中に入っていなければならないし~ママさんとの約束だってあるし~。そうなんだ。美鈴お嬢が大きくなるまでは、魔界に戻ることもできず、見守ってやらなければならないんだ。  ところが、厄介な事に、美鈴お嬢は魔女の家系に生まれたにもかかわらず俺様と会話すらできない。俺様のことを単なるカワイイぬいぐるみのテディベアとしか認識していないらしい。となれば、これから高校生になる女の子が、十年戦士の汚いヌイグルミを後生大事にしてくれるとは思えなかった。 『もう要らないわ』  と、引越しの際にゴミとして処分されるのが関の山ってやつさ。  しかしだった。驚く事に美鈴お嬢は数少ない私物の一つとして、俺様を選んでくれた。コレってどういう事? 意外っていうか、全然理解不能。まあ、いいか結果オーライ。という訳で俺様、四月から堂々と女子高デビュー。
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