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「それで、うちの家族もみんな面倒見てもらえるってことですか」
「そういうことだよ」
私が彼にそう言うと、彼は二つ返事で了承した。
あまりにもあっさりと受け入れてしまったものだから、拍子抜けしてしまった部分がなかったと言えば嘘になるけれど、それならそれでいいかと思った。
ただこの決断は、彼にとってどれほど酷なことか想像もしていないだろう。
「じゃあ、正式な入学手続きは担当者から改めて説明するから、早めに手続きを済ませるように」
なんせ、公式の入学手続き日はとうに過ぎている。
処理の都合上、早めにしないと事務方も大変だ。
そんなこっちの都合なんて、どうでもいいだろうけれど、彼は淡々と必要書類に目を通し記入していった。最後にある彼を縛るルールの書かれた誓約書には特にしっかりと目を通して、簡単な質問までしていた。
「これを破ったらどうなるんですか?」
「あなただけでなく、ご家族の皆様がここにいられなくなることはもちろん、まあ、あとはお察しください。その代わり……」
そう、その代わり、彼の望むことを我々も提供する。
「約束は、守ってくださいよ」
「それは私が直々に行うから安心するように」
担当者の代わりに私が横から言葉を挟む。その挟んだ言葉に、彼は頷くように首を縦に動かして誓約書にサインをした。
「改めてようこそこの学園へ、学長として君のような人材を迎え入れられることを喜ばしく思うよ」
私の言葉に少し複雑そうな顔をしたのがわかった。
そんな複雑な表情をしてまで、この学校に入学したかったのかといえばそうではないのだろう。
何よりも彼は”約束”を強調したから。
そういう気持ちはわからないではなかった。
鏡に映る、自身の幼いままのからだがとても嫌だった。
でもこれは、あの日受け取った”優しい光”に生かされているからだと、何度でも言い聞かせた。
彼の望みはとても難しいものであったが、私ならそれは不可能ではなかった。
本当はあの方だってできただろうに、私がしなければならないのは単なるリスクの問題だろう。
あの方はあくまで”お星さま”だから。あの方もある種特別ではあるけれど、それでも”お星さま”であることには変わりない。
”落とし子”は有限だ。その事象が確認、報告されてから、あの方はむやみに表には出てこなくなった。
では光を直接得た私は?
行き場のない私は、ここで身を隠すように生かされているが、本当はモルモットなのだ。悔しいけれど、理解している。
それでも、誰かの記憶に残っていられることに安堵してしまう自分がいる。
なあ、お前が生かしてくれたこのからだは、ずっと大人にはなれないでいるよ。
藤の花があしらわれた櫛を片手に、私は何を思えばいいのだろうか。
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