柴ちゃん

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柴ちゃん

静香はようやく退院する事になり、入院してから二週間ほどの時間が流れたようだ。 一人でいた訳じゃないから、とてつもなく早く時間が過ぎたように思う。 その日のうちに、母である静香と、香織の家に向かった。 「ーーこの度はいろいろとお世話になりまして、ありがとうございます」 静香は頭を下げると、私も真似をして頭を下げた。 「ーー色々とありがとうございました」 「夕夏ちゃんが帰っちゃうと寂しくなっちゃうわね」 「うん」 由美は泣いている。 別にこれが永遠の別れという訳でもないのに。 もらい泣きしそうになりながらも、私は精一杯元気な声で言った。 「ーー泣かないで由美ちゃん。また遊びに来るから」 「ーー絶対だよ?」 私は頷く。 ーー約束。 二人は小指を絡ませ、約束を交わした。 家からもそんなに離れていない距離だから、すぐに約束を果たせるはずだった。 夏の終わり。 まだ残暑が残る街に、生暖かい風が吹く。 私は母と共に、いつもの日常に戻っていった。 ただ1つ、違う事はーー。 柴犬の「柴ちゃん」が仲間に加わっただけ。 そして連絡がつかないままの父。 父は今何をしているのだろう? 一番大事な時に、連絡がつかないなんて。 私は父に対する憎しみすら覚えた。 ーーあんな人、もう父親ではない。 ーーこれからは私が母を支えていく。
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